唐沢俊一検証blog

唐沢俊一氏の検証をしてきたブログ(更新は終了しました)

ウスッペラじゃのう、怪人。

 今回は、唐沢俊一ソルボンヌK子『昭和ニッポン怪人伝』(大和書房)の総括と補足を行う。まず補足から。「まえがき」にこんなことが書いている。P.3〜4より。

 もちろん、カラオケの普及には、日本人が誰でもマイクを持って人前で歌うということに対するハードルを下げるという状況が必要である。1960年代までは、人前で歌ったり拍手を浴びたりすることに、極端な照れや恥じらいを感じる人々が、かなりの数いたのである。
 それが緩和されたのは、60年代のグループサウンズブームで、日本の若者が自分たちで楽器を持ってバンドをやり、プロの歌手ごっこをし始めたことに原因がある。そして、芸能プロダクションも、そのような素人たちを、素人っぽさを残したまま、テレビやステージ上に引っ張り出すようになった。その代表格が、ザ・タイガースである。
 やがて70年代になると、“アイドル”と呼ばれる若手スターたちが次々と人気者となる。天地真理麻丘めぐみといった歌手たちは、最初、歌唱力の未熟さから“プロとも言えないジャリタレ”と酷評されたが、その素人っぽさ、つまり一般人との差のなさによって人気を博し、これは素人にとっても人前で歌うことへの敷居がぐんと下がったことを意味した。
 カラオケの普及は、単にカラオケの機械が発明されたということによるのではない。このような日本人の意識の変化が、そのニーズを生み出したのである。

 歌声喫茶はどうなるのか。それに、グループサウンズやアイドルが原因でカラオケが普及したのなら、若年層から広まったはずなのだが、カラオケが開発された当初はカラオケの機器はスナックなどに置かれていることが多く、カラオケが若者へと普及するまでには時間が必要とされたのである。加えて、唐沢の文章だと日本以外の国でカラオケが広まっている理由が説明できない。そもそも「あの歌手、あんまり歌が上手くないな」と感じてカラオケを始めようと思わないのではないか。

次に「あとがき」より。P.221より。

 『ウルトラマン』でフジ・アキコ隊員を演じた女優・桜井浩子さんと対談したときに聞いた話だが、前作『ウルトラQ』の撮影に入る前、午前中に円谷プロダクションを訪れると、大のオトナたちが真剣な表情で、ある怪獣に角をつけるべきかつけないかで議論をしており、驚いたことに、夕方になって帰ろうとしてみると、同じ場所で、また同じ人たちが同じことで議論を続けていた、という。
 「あの熱意はどこから来るのかしら」
 と、当時まだ10代だった桜井さんは不思議に思ったというが、この、熱に浮かされたような熱中度こそ、昭和戦後を突っ走り続けたあの時代の人々が共通して持っていたパワーなのではないかと思う。

 いい話だなあ。「ペギラに角をつけようぜ」「馬鹿だな、それだとチャンドラーになっちゃうだろ」「チャンドラーは角じゃなくて耳をつけているんだよ」とか言ってたのだろうか。しかし、チャンドラーはレイモンド・チャンドラーから名前をとったと思っていたら、チョンダラーなのか?
 せっかく話は面白いのに、唐沢俊一の解釈がダメである。…っていうか、唐沢はモノを作ったことがないんだなあ、と思う。特撮でもマンガでもアニメでも演劇でも、何かを作るときにはそれくらいこだわって当たり前なのである。矢吹健太朗先生だって「俺はパンチラを描けって言ったのにどうしてパンモロを描くんだ!?」とかアシスタントに説教しているはずだ。…まあ、それは冗談だとしても、自分だって検証するときはハタから見れば馬鹿馬鹿しいことでも納得がいくまで調べるようにしている。情熱をこめて何かを作り出すということにいつの時代も変わりはないのではないか。唐沢俊一は『昭和ニッポン怪人伝』を書くときに、劇団にゲストとして参加しているときにどれくらいの情熱をこめてやっているのか。

 今度はソルボンヌK子のマンガについて。
 まず、P.27で「虫プロダクションに通う美人社員」が「練馬駅」で降りているのだが、虫プロの最寄り駅は「富士見台駅」なのでは。
 次。「寅さん」の章のマンガで『トラ!トラ!トラ!』で渥美清と会話をするコックが「松山省二」(現・松山政路)となっているが正しくは兄の「松山英太郎」。それから、『トラ!トラ!トラ!』で渥美清が起用されたのは、黒澤明が『男はつらいよ』のファンだったからではないか?と描かれているが、むしろ黒澤が喜劇出身の俳優を好んで起用していたこと(例:渡辺篤藤原釜足)から渥美清が起用されたのではないだろうか。『乱』でも植木等を起用しているし。
 さらに。「アントニオ猪木」の章で、猪木が力道山に「リキさん」と呼びかけているが、2人の関係を考えるとちょっと有り得ない。猪木は力道山のことを今でも「先生」と呼んでいる。…と思っていたら、どうやらこのブログを下敷きにしたらしい。
 もひとつ。「ウルトラマン」の章で、ウルトラマンのマスクが作られた経緯を、
飯島敏宏監督が「表情を出した方がいいのでは?」と提案→口が開閉する仕掛けをつける→TBSから「ヒーローが日本人顔ではアメリカで売れない」とクレームがつく→成田亨がアルカイック・スマイルをヒントにして新しいデザインを考案
…としているが、この流れだといわゆる「Aタイプ」のマスクはどうなるのか、よくわからなくなる。
 そして、ウィキペディアに載っている情報だけで成り立っているマンガが何本もあるのは困りものだ。


 以下、『昭和ニッポン怪人伝』を総括してみる。
1.唐沢俊一は「ネタ」で勝負する人である。
 これは皮肉でなく本当にそう思った。今まで数々の本を検証してきたが、1冊丸ごとガセを発見したというのはおそらく初めてである。『唐沢俊一のトンデモ事件簿』(三才ブックス)もかなりしょうもない本だったが、それでも中にはネタのチョイスがよかった章もあって、ネタの紹介に徹していればまだしも読める、本としての最低ラインはクリアーしていたのである。しかし、今回、『昭和ニッポン怪人伝』で今まで万人に語られてきたネタを取り上げた途端、このような有様になってしまったのだから、やはり、良いネタを探すことを心掛けた方がいいのではないか。まあ、昔から稀少本の内容を丸写しすることが得意な人ではあるのだが。
2.唐沢俊一は幅の狭い人である。
 今回の『昭和ニッポン怪人伝』によって、唐沢俊一が「マンガ」「野球」「小説」「政治」「映画」「食品」「芸能界」「プロレス」「特撮」「犯罪」について語れないのがわかってしまった。…これだけ封じられてライターとしてどうしたらいいのだろう。『残像に口紅を』っていうレベルじゃねーぞ!そう考えると『昭和ニッポン怪人伝』というのは遠回りな自殺行為だったのかも、と思えなくもない。唐沢俊一は本当にこれからどうするのか。みなさんも考えてあげてください

 それでは最後に各章の主な問題点をおさらいしておこう。


第1章(手塚治虫と水木しげる)
手塚治虫が科学の明るい面しか描かなかったかのように説明。
・手塚と水木しげるについて語るうえで欠かせない作品である『一番病』をなぜかスルー。
・手塚と水木の生き方を根本的に誤解している。


第2章(長嶋茂雄と王貞治)
・野球の基本的な知識の欠如(例:長嶋茂雄の引退の言葉を間違える)
・結局のところ、俗流文化論しか書いていない。
一本足打法の特訓と剣豪小説を結びつける無茶なこじつけ。


第3章(三島由紀夫と川端康成)
・「同性愛」という観点だけで押し切ろうとしている。
・文学の素養が不足しているためか、話が浅い。


第4章(佐藤栄作と田中角栄)
角栄が当時史上最年少で総理大臣になったから実力不足であったかのような決め付けをしている。
角栄の人気、佐藤の不人気の原因が「嫌米感情」にあるとする誤った分析。
・無意味に長い引用をしている。


第5章(007と寅さん)
・「観光映画」というジャンルを作り出して無理矢理な分析をしている。
・映画にまつわる知識の欠如(例:寅さんがテレビ版最終回で死んだ土地を間違える、『クレージーの怪盗ジバコ』を観ずに語る)。
・旅行の歴史を知らない。


第6章(ボンカレーとカップヌードル)
マクドナルド1号店が出来るまで日本で外食をする習慣はなかったとする珍説
・昔のカレーは「シャバシャバ」で、ちゃんと作ろうとすると時間がかかるという珍説パート2。

・個人のブログから盗用。


第7章(クレージーキャッツとザ・タイガース)
・人伝に聞いた話を本人から直接聞いた話であるかのように書いた疑惑。
・結局のところ、クレージーとタイガースの実情をよく知らない。
・アイドルの人気の基準が「生活力」から「鑑賞性」に変わったという珍説。


第8章(ジャイアント馬場とアントニオ猪木)
タイガーマスクUWFを無視して1980年代以降のプロレスを語るという暴挙。
・今のプロレスファンが「遺恨」を楽しめなくなっているという単なる嘘。


第9章(ウルトラマンと仮面ライダー)
・2ページにわたる無意味な文章。
・『破壊者ウルトラマン』、金城哲夫に対する無理解。
・『ウルトラマン』の製作にアメリカが深く関与していたという根拠不明の新説。


第10章(三億円事件とよど号ハイジャック)
・過去の原稿の使い回し。
三億円事件を良しとして、よど号ハイジャックを批判する妙な価値判断。
・単に事実を列挙してどんな時代だったかを表そうとする無意味な行為。


第11章(オノ・ヨーコと美智子皇后)
・そもそも比較することに無理がありすぎる。
・おかげでオチもトンデモないものに。
・本論と関係ない文章が4ページ続く。



…まあ、どの章も「比較する意味があるのか?」って感じなのだが。あと「おもしろ雑学評伝」を名乗っている割りには紹介されている雑学がウィキペディアを見ればわかることばかりとか、誤植と文章の乱れがひどい、というのは全体的な問題としてあった。大和書房の三浦千裕さんはもっとがんばれ。

 なお、ちょうど1冊丸ごと検証できたので、『昭和ニッポン怪人伝』に関する検証をまとめて若干補足した上で同人誌にすることにします。『トンデモ「昭和ニッポン怪人伝」』というタイトルにでもして。…これで夏コミの原稿はキープできたことになるので個人的には嬉しいw いや、本筋の『唐沢俊一検証本』Vol.1(仮)もやりますよ?書き下ろししなきゃいけないからちょっと大変だけど。

※追記 怪獣ファンさんのご指摘に基づき訂正しました。

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