ハナの首飾り。
唐沢俊一・ソルボンヌK子『昭和ニッポン怪人伝』(大和書房)の検証、いよいよラストである。今回は第7章「クレージーキャッツとザ・タイガース」を取り上げる。
唐沢俊一はクレージーキャッツが現在のSMAPなどのジャニーズ系のグループの売り出し方の先駆けであると書いている。『昭和ニッポン怪人伝』P.131より。
(前略)最初にグループで売り出して、その後、メンバー個々の個性に合わせて単独で売り、しかし定期的にグループ単位でのコンサートを開いて、グループが健在であることをファンにアピールする、という売り方は、当時、ナベプロと提携し、のちに大きなライバルとなっていくジャニーズ事務所のジャニー喜多川が最も積極的に採用し、大きな成功を収めていくことになる。
SMAPやTOKIO、KAT-TUNの存在に、クレージーキャッツが影響を与えているというのは、ちょっと意外かもしれないが、クレージーとジャニーズ系のアイドルたちは、ザ・タイガースを間に挟んで、血のつながった兄弟なのだ。
どうしてザ・タイガースを挟むのだろうか。ザ・タイガースは沢田研二がソロ活動を積極的に行うようになって間もなく解散しているのだ。クレージーキャッツとは売り出し方が明らかに異なっている。
P.131〜132より。
1960〜70年代にかけて芸能界を事実上、支配していたと言っていい渡辺プロダクション社長、渡辺晋氏(1987年没)に私は生前、一度だけお会いしたことがある。私の伯父(ボードビリアンの小野栄一)がテレビ初期の時代に何度もお世話になっていたからか、小僧っ子の私にも親しく声をかけてくれ、
「プロダクションをやっていくのなら、柱は3つ、立てておかないといけませんよ。2本足は倒れる。足が3本あれば、1本が欠けても、2本足で立ちながら、次の1本を新たに探す時間がとれる」
と教えてくれたことを鮮やかに覚えている。
これは興味深い記述だ。渡辺晋は1987年に亡くなっているから、唐沢俊一が会ったとすれば当然それ以前なのだが、一体いつの出来事なのだろうか。唐沢俊一の「空白の80年代」を埋める手がかりになるかも、と思っていたら…。「裏モノ日記」2000年1月16日。
・・・・・・これはわれわれにも言えることで、得意分野を持つのはいいが、あまりに“○○の××さん”などと言われてイメージが固定すると、その分野が流行遅れになったとき、仕事がパッタリ絶えることになる。以前、芸能プロダクションの先輩がナベプロの社長の言葉として、“プロダクションに(収入を支える)柱が一本しかないのは危険である。二本でも、一本が欠ければ屋台がグラつく。柱は三本、作っておきなさい”というのを繰り返し語っていた。フリーのモノカキで一生をまっとうしようとするなら、“それだけで食える”得意分野が三本は必要だろう。
怖っ!!
どうして人伝に聞いた話が渡辺晋から直接聞いたことになっているんだ?ありもしなかったことを「鮮やかに覚えている」ってどういうこと?ウソをついているのか?本気で思い込んでいるのか?怖すぎる。何なの、この人。
P.134より。
しかし、いくら映画の中であっても、実年齢が40を超せば、やはりそうそうバカはやっていられない。第一、体力がついていかない。事実、65年あたりを境にして、クレージー映画の質は次第に下がってくる。その分をナベプロは、映画の豪華さで補おうとして、黒沢明の脚本家だった小国英雄を迎えての『無責任清水港』、当時ブームだった海外旅行映画とドッキングさせて『クレージー黄金作戦』、『クレージーの怪盗ジバコ』などを製作したが、すでに60年代後半になって、日本の経済成長にも陰りが見え始め、観客はとにかく元気さえあればあとは大丈夫、といった能天気なクレージー映画についていけなくなる。
そして、メキシコオリンピックブームを当て込んで超大作として製作した1968(昭和43)年の『クレージーメキシコ大作戦』が、メキシコシティに大々的なロケを敢行したにもかかわらず、前作『日本一の男の中の男』の入場者数の半分にも満たないという興行的な大惨敗を喫したことで、クレージーキャッツ人気は一気に凋落に向かい始めるのである。
まず、『クレージーの怪盗ジバコ』では海外ロケは行われていない(詳しくは5月19日の記事を参照)。それから、『クレージー黄金作戦』『クレージーの怪盗ジバコ』『日本一の男の中の男』はそれぞれ1967年の興行ランキングベストテンに入っているので、観客はクレージーの映画についていけなくなったというのはおかしい。さらに『クレージーメキシコ大作戦』も1968年の興行ランキング第4位に入っている(第5位は谷啓主演の『空想天国』)。入場者数が半減したというのは事実なのだが、ヒットを記録していることは覚えておくべきだろう。あと、「日本一」シリーズと「クレージー作戦」シリーズがゴッチャになっているね。
P.135より。
その前年の『クレージー黄金作戦』では、のちにやはりクレージーの牙城をおびやかす存在となるザ・ドリフターズが登場しているが、時代と寝た者は、時代が変わるとともにその花も枯れていくということなのだろう。植木等に次にスポットライトが当たるのは、1980年代後半から、60年代回顧のブームが起こり、リバイバルシングル『スーダラ伝説』がオリコンのベスト10入りするまで待たねばならない。
植木等は1986年に『新・喜びも悲しみも幾歳月』で日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を取っている。スポットライト当たってるじゃん。
凄いとしか言いようがない。
P.136〜137より。
ファニーズのメンバーも、ビートルズ来日公演で前座を務めていた「ブルージーンズ」の内田裕也(中略)に誘われて、渡辺プロダクションのオーディションを受け合格、上京してフジテレビと渡辺プロダクションの共同制作になる人気番組『ザ・ヒットパレード』に初出演の際、クレージー主演の番組『おとなの漫画』などをつくっていたフジテレビ側のプロデューサーから、
「『ファニーズ』じゃ弱い、全員関西出身なのだから、阪神タイガーズ(原文ママ)にあやかって『ザ・タイガース』にしろ」
と命じられる。
メンバーは全員むっとしたらしいが、結局その改名は大成功し、また、その横暴なプロデューサーは、その後タイガースのヒット曲の大半を作曲することになる、のちのすぎやまこういち氏である。
すぎやまこういちは『ザ・ヒットパレード』の演出を担当していたので、ディレクターと呼んだ方がいいのでは。
P.138〜139より。
そしてもう1つ、これはタイガースというより沢田研二の存在が最も重大な要素だったが、テレビ時代になって、ファンの女性たちは、音楽性よりも、そのルックスに魅力を感じるようになったということだった。
男たるものは、ルックスよりも、いざというとき女性を守れる体力や生活力の方を求められるのが、60年代までの、明日という日の食いぶちを気にしなければいけない日本の常識だった。
しかし、70年代に近づくにつれ、女性の好みは、男性の魅力を、実質的な能力から、鑑賞性に移していく。
…いや、どうしてアイドルを好きになるかと言ったら、今も昔も第一にルックスでしょ?「生活力がありそうだから」って好きになるか?御三家は食い扶持を稼げそうだから人気があったというのか?沢田研二の出現によって「人気のあるルックス」の条件が変化した、ということを書きたかったのだろうか。
P.139より。
加橋かつみがタイガースを途中脱退したのも、音楽性の加橋(トッポ)とルックスの沢田(ジュリー)という(当時の)比較で、自分がタイガース最大のヒット『花の首飾り』(加橋がメインで歌った曲で、GSの曲として初めてオリコンのベスト1になり、その座を7週にわたってキープし続けた)を歌っているにもかかわらず、ファン人気も事務所の扱いも、ルックスで勝る沢田の方がはるかに上であることに腹を立ててのもの、であったことは間違いないだろう。
「間違いないだろう」って断定しちゃっていいのか。加橋かつみに怒られないか?なお、オリコン・ヒットチャートがスタートしたのは1968年1月からなので、『花の首飾り』はスタートして間もなく1位になったことになる。さらに、オリコン・ヒットチャートが試験的に運用されていた期間に、ジャッキー吉川とブルーコメッツの『北国の二人』がベスト1になっているので、厳密に言うとこちらがGS初のベスト1となる。
P.140より。
ちなみに、このヒロインは全国応募で選ばれた久美かおりという女性で、このあともタイガース映画にコンスタントにジュリーの相手役として出演するほか、自らも歌手として『くちづけが怖い』などのヒット曲を出し、レコード大賞新人賞まで受賞するものの、タイガースファン、ジュリーファンの女性たちからの脅迫や嫌がらせが続くことで芸能界に嫌気がさし、早々と引退してしまっている。タイガース人気の犠牲者と言えるだろう。
久美かおりについては、goo音楽でも同様の説明がされている。しかし、彼女の歌をまとめた『星のプリンス』(新星堂)の解説ではこのように書かれている。
混沌とした時代のなかで一時の清涼剤のような雰囲気が男子に受けたが、タイガース・ファンの女子には当然のように嫌われ、カミソリ入りの封書も送られてきたという。
しかし、華やかな芸能界にはあまり馴染めなかったようで、引退後の1973年に編曲家の溝渕新一郎と結婚している。
CDアルバムの解説でこのような説明がされている以上、「嫌がらせでやめた」と断定しないほうがいいように思うのだがどうだろう。
感極まって歌えなくなっちゃっている。
…しかし、やっぱりクレージーキャッツとザ・タイガースを並べた意味はあんまりなかったような。クレージーとGSだったらいくらでもネタはあるはずなのにウスい話しかないし、ナベプロについて書いてみても面白かったと思うけどなあ。
さて、これで全11章の検証を終了した。次回、『昭和ニッポン怪人伝』についての総括と補足をやります。
※追記 miduchiさん、discussaoさんのご指摘に基づき記述を訂正しました。
※追記2 ナッキーさんのご指摘に基づき追記しておきました。
※追記3 割也さんのご指摘に基づき追記しておきました。
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