唐沢俊一検証blog

唐沢俊一氏の検証をしてきたブログ(更新は終了しました)

じっと我慢のFREEDOM。

 唐沢俊一ソルボンヌK子『昭和ニッポン怪人伝』(大和書房)を現在検証しているが、よく考えてみるとこの本で取り上げられているメンバーに「怪人」と呼ばれるような人はいない。まあ、仮面ライダーは「怪人」なのかもしれないが(水木先生も?)、ONや皇后さまが「怪人」とは。ヘンなタイトルをつけたものである。書いている人は「怪人」なんだろうけど

 さて、今回は第6章「ボンカレーカップヌードル」を取り上げる。…「怪人」どころか「人」ですらないじゃん。この章はボンカレーカップヌードルが日本人の食生活をいかに変えたか、という文章なので方向性としては合っていると言えるのだが、細かい点でおかしなところがある。
 まず、冒頭で映画『2001年宇宙の旅』が公開されたのと同じ1968年にボンカレーが発売されて、

この映画の“食事”シーンを古いものにしてしまう。

としているが(P.111)、レトルトパウチに食料を入れるのはボンカレーが発売される以前からアメリカ軍でも研究されていて、ボンカレーはそれをヒントにして作られたものだし、アポロ計画での有人宇宙飛行ではお湯を使った暖かい食事をとることが可能になっている。そもそも当時のボンカレーを宇宙に持っていったってそのまま食べられたのかどうか。あとP.112には「怪我の巧妙」と書いてあるのもどうなのかと。

 続いて、ボンカレーの発売によって家庭の食事が変わったとしている。P.113より。

 昭和の家庭でのカレーは、今日で言うスープカレーに限りなく近い、シャバシャバしたものだった。戦時中に英語使用禁止運動が起こったときのカレーの訳語が、“辛味入り汁掛け飯”であったことからもわかるように、汁にややトロみがついた程度のものであった。
 どろりとするまでにカレールーを煮込めるのは、やはり専門店に足を運ばねばならぬものであり、また、家庭でそれを再現しようと思えば、女性はほぼ半日以上を、台所の鍋の前で過ごさねば(焦げ付かないよう始終かき回す必要がある)ならなかった。それでも女性たちがそれを苦にしなかったのは、カレーは子供たちに人気のメニューであり、学校からお腹を空かせて帰ってくる子供に、母親はカレーを食べさせてあげたかったのだ。

 「シャバシャバ」というのはとろみがないということである。…しかし、この文章はちょっとズルい。「いい話」のように見せかけて論点をずらしているのだ。だって、カレーを作るのに時間がかかるのと「どろりとするまでにカレールーを煮込」むというのは別問題だろう。それにカレーのルーが粉末から固形になったことでカレーを作る時間が大きく短縮されたことだって画期的なことだったはずなのだが、それはスルーなのか?さらに固形のルーは最初は削らなければいけなかったのだが、そのまま鍋に入れられるようになったり(グリコのワンタッチカレー)、子供向けのものが出たり(ハウスのバーモントカレー)、進化を繰り返しているのだ。もうひとつ不思議なのは、ボンカレーを取り上げているのに、CMの話が出てこないこと。「じっと我慢の子であった」と書けば読者は「なつかしい!」とイメージを膨らませることができたと思うのだが。ついでに「インド人もビックリ」などのカレーにまつわる数々の名CMにも触れることもできただろうし。

 続いてカップヌードルの話である。「発砲スチロール」とあるので(P.115)若干ヘコむのだが。

P.115より。

 実はこの1971年には、もう1つの画期的な食品が、アメリカから日本に初お目見えしている。マクドナルドの第1号店が銀座三越の中に開店したのである。
 ボンカレーは、食べるために、まだ、家に帰る必要があった。しかし、カップヌードルは当時自動販売機で売られ、お湯が注がれたものを歩きながら備え付けのプラスチックフォークで食べるのが(発売当初のテレビCMで、外人カップルがそのようにして食べていた)スタイル。マクドナルドは(銀座の第1号店こそテイクアウト専門だったが)その店内で食べることが可能。つまり、食事をするのに家庭というものがそもそも不必要になったのである。食事の常識がくつがえされたのだ。

 日本初のハンバーガーショップドムドムハンバーガー原町田店(1970年2月開店)。ダイエーのそばにあるあれかあ。っていうか、マクドナルドって「商品」なのか?…しかし、自分は当時生まれてなかったけど、マクドナルドが出店する以前から「外食」をすることはあったはずだと思うのだが。出前をとることだってあっただろうし。…っていうか、唐沢はこの後で江戸時代に寿司や天ぷらが屋台で売られていた話を書いているのだが、もう既にこの時点で「食事をするのに家庭というものがそもそも不必要になった」のでは?書く前に文章の整合性がとれているかどうか、ちゃんと考えて欲しいものである。なお、カップヌードルを食べるときにプラスチックのフォークを使うのは、日清食品の創業者である安藤百福が、チキンラーメンをフォークで食べる外国人のバイヤーを目撃したのがヒントになっている。

P.116より。

 しかし、発売の翌年、1972(昭和47)年に起こったあさま山荘事件で、雪の山荘周囲を固める機動隊員たちがカップヌードルを食べる姿が、NHKを含めた報道番組で大きく映し出され、国民全員が“あれは何だ”とカップヌードルに興味を持ったという。

 「国民全員」?本当に?

 
 このコラムの最後は、野口聡一氏がスペースシャトルに搭乗したときに日清食品が開発した「スペース・ラム」という宇宙用のラーメンを持って行ったというエピソードが紹介され、野口氏が搭乗したスペースシャトルと『2001年宇宙の旅』に登場した宇宙船の名前がともに「ディスカバリー号」である、と締められている。なるほど、これがやりたかったのか。
 しかし、そうなるとカレーの方も気になるが、唐沢は次のように書いている。P.120〜121より。

カレーは残念ながらボンカレーではなかったが、日本人宇宙飛行士が個人的に持ち込んだレトルトカレーが、そのおいしさから他の乗組員の間で奪い合いが起こるほどの人気で、これを踏まえてハウス食品宇宙航空研究開発機構JAXA)とともに、日本人宇宙飛行士用のレトルトカレーを開発。2007年6月に宇宙日本食として3種類のレトルトカレーが正式に認証された。

 
 なぜボンカレーでないと残念なのかわからないが(大塚食品は残念だろうけど)、このくだりは説明が非常にぞんざいになっている。まず、最初に宇宙空間にカレーを持ち込んだのは毛利衛氏。どうして名前を挙げないのかなあ。そして、開発された「スペースカレー」は若田光一氏によって宇宙へと持ち出されている。このことをどうして説明しないのか。

 今の宇宙食が実に種類豊富であることに驚かされる。唐沢もネタにすればよかったのに。「ディスカバリー号」で上手く落としたかったのはわかるけど。

…正直な話、この章は『昭和ニッポン怪人伝』の中ではマシな方である。今までの章が無関係のものを無理矢理組み合わせていたり事実誤認が多かったことに比べるとだいぶマシである。しかし。残念なことに「例のアレ」をやってしまったおかげで台無しになってしまっている。以下説明する。
 唐沢はこの第6章でカップヌードルが中国・台湾にある伊府麺をモトネタにしていると書いているのだが、実際のところそのような事実があったかどうかは不明である。しかし、本当の問題は次の文章にある。P.120より。

 中国の伊府麺も、もとは清朝乾隆帝の頃(300年ほど前)、広東省恵州市の知府(地方政府の長官)だった伊乗綬という人が、もらった麺を茹でようとして間違って油に入れてしまい、揚がって固くなった麺をもう一度湯で柔らかくして食べたところおいしかったので“伊”“知府”の麺で伊府麺、と呼ばれたという伝説から、300年間ほとんど変わらない形で今も中国や台湾の人に食べられ続けている。

 伊府麺の名前の由来となった人物の名前は伊秉綬(い・へいじゅ)。しかも、伊秉綬は1754年生まれなので「300年ほど前」というのは古過ぎる乾隆帝の在位も1735年からだしなあ。
 さて、1年以上唐沢俊一を検証しているものだから(長くやってきたなあ)こういう時には勘が働く。こういう間違いをするときはだいたいどこかからコピペしているのだ。そう思っていたらやっぱり。台南・ダイアリーより。

ところで、
ここまで、こういう揚げ麺を、” 広東式意麺 ” と呼んできたが、
本当の 大陸中国の名前は、” 伊府麺 ( インフーメン ) ” という。

なぜ ” 伊府麺 ” なんて 呼ぶかというと − 

清代の 乾隆帝のころ、
広東州 恵州市の ” 知府 ( 地方政府の長官 ) ” で
” 伊乗綬 ” という人がいた。
この人は、驕らない性格で、地元の人に 人気があったが、
麺類がたいそう 好きな人だった。
あるとき、そのことを 知っている 近所の人達が
大量の ” 烏龍麺 ( うどん ) ” を プレゼントした。
とても 食いきれない 量だったので、ゆでては 人にご馳走したが、
間違って なんぼかを、湯に入れずに 油に入れて 揚げてしまった。
しかし、この マチガイ麺を 食った人は、かえって絶賛したため、
以後は、こういう揚げ麺は ” 伊 ” という ” 知府 ” の麺
すなわち ” 伊府麺 ” と呼ばれて、広東州の名物になった。

− ということらしい。

はい、そっくりですね。第一に伊秉綬の名前を「伊乗綬」としている点。第二に「府」を「知府」(地方政府の長官)としている点。「府」については他にも「府=家」とする説や、伊秉綬が「府尹」という役職に就いていたためとする説もあるのに。第三に「間違って揚げてしまった」という点。他にも伊秉綬の家の名物料理だったという説もある。第四に“伊”“知府”という表記。…ここまでカブっていたら間違いあるまい。しかも、ただコピペするだけでなく乾隆帝についてのガセまで付け加えている。P&G達成である。

…結局のところ、唐沢俊一は何が問題なのかもちゃんとわかっていないのだと知ってガッカリしてしまった。文面をそのままコピペせずに多少細部を改めればいいんだ、そうすれば著作権法にもひっかからない(本当にそうかな?)からいいんだと考えるのが間違っているのだ。プロのライターが個人のブログの内容を疑いもせずに書き写していることこそが問題なのだ。法律にさえ触れなければいいってものじゃない、ライターにとってのモラルというものがあるはずだ。唐沢がモラルを踏みにじるような行為を続けているから怒っている人がたくさんいるのに、それがわからないんだなあ。一体どうしたらわかってもらえるか、考えなくてはならないのだろうか。


 パクリを発見すると怒るというよりも疲れてしまう。本当に残念だ。あと4章。新宿東口の紀伊國屋の地下にある「モンスナック」のスープみたいなカレーを食べるか、ドムドムハンバーガーに行ってみようかな。…うちの近所にあるかなあ。

※追記 一部追記しました。

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