電波オデッセイ(後篇)
それでは続き。『オタク論!』(創出版)P.79〜89より。
岡田 冷たい言い方になるけど、やっぱり弱者の泣き言って、聞き応えがあるから泣けますよね。
『電波男』と岡田の著作がよく似ていることは既に書いたが、『オタクはすでに死んでいる』も「泣き言」として読めば面白いのかもしれない。
岡田 俺たちだって、モテたくないんだったら、いくらでもオンナを敵視することはできるよ、というのが男の本音だと思うし、男どうしで遊んでる方が本当は楽しいじゃないですか。男は女とか恋愛とか嫌いなんですけど、それだとモテないからバランスをとって生きてるんです。
…なんだか「自分はモテようと思えばいくらでもモテることができる」と言ってるかのような。男が「女とか恋愛とか嫌い」だったら本田氏はあんなに苦しまなかったろうに。
岡田 やっぱり芸になるのはルサンチマンだけですよ。第一世代、つまり40代のオタクは、オタクであること自体がルサンチマンになり得たんですけど、30代のオタクはモテない、オンナに相手にされないということがルサンチマンになっている。これからの20代のオタクの人たちがルサンチマンをもって世に出よう、文学的なものを書こうとするならば、「オタクになれない」ことをルサンチマンにするしかないでしょうね。
さすがは「著者個人の問題に過ぎないことを全体の問題にすりかえる」本家本元。本田透ひとりがもてないことを挙げて30代のオタク全体がもてないことにしてしまっている。あと、岡田も「自分はオタクではない」と、とある本で書いているんだけどね。その件は後々。
唐沢 この本を読むと、オタクというのはどうして現実との付き合いがここまで下手なんだろう、と思うんですが。
岡田 恋愛なんかしようとするからでしょうね。例えば著者の本田君は恋愛と家族と両方欲しがっているけど、本来、家族というものを売り渡して恋愛を得ると僕は思ってるんですよ。それまでは、恋愛というのは一部の特権階級のもので、大多数の人は家族で我慢していた。みんな『ハガレン』を読んでるんだから。“等価交換”を思い出して欲しいんだけど(笑)、“等価交換”で恋愛を得たら失うに決まっているのに、そんなに何もかも欲しいと言っても手に入るはずがないんです。
唐沢 岡田さんの言う「家族はいらない」は僕は理解ができる。ただ、「じゃあ捨ててもいいや」と切り捨てられるかというと、そうはいかない歴史が延々と続いてきた。例えば「クレヨンしんちゃん」なんかは「家族は大事」ということを必死になって説いてきたわけですね。昨日、劇場版「クレヨンしんちゃん」の試写を見てきたんですけど、それを見ても、いくら無理しても家族の付き合いというのを、もう打ち出せなくなってしまった。我々が「個人の欲望や願望を達成させることが世の中で一番大事なことなんだよ」と教えられた結果、そういうものはある程度犠牲にしながらひとつの単位として集まっているということになる。
岡田 家族と恋愛は、僕は両立はすると思うんですけど、それは強者に限ってのことです。強者は相変わらず、昔から家族と恋愛を両立させてきたし、本田君の定理で言うと、顔がいい男は家族も恋愛も両立できて、顔が悪い男は恋愛を諦めて家族しか残らなかったわけですから。
岡田斗司夫の理屈がよくわからないなあ。まず、一般的な考え方としては「恋愛」と「家族」は別に強者でなくても両立させられるはずである。別に恋人を作ったからと言って家族が必ず反対するというわけでもないんだし。それに『電波男』の読み方としてもおかしい。本田透は「自立した個人同士の恋愛」には無理があるからパートナーが必要なのである、としていて「恋愛」と「家族」とを明確に区別してはいないのだ。あと、恋愛が「一部の特権階級のもの」だったというのはいつの時代の何処の国のこと?
次に唐沢俊一は「「家族はいらない」は僕は理解ができる」と言ってるけど、今でも母上と同居していてご飯をつくってもらってるし、「と学会」に参加できたのは唐沢商会のマンガがきっかけだったのに。あと、札幌に帰っていた時期にはこんなこともあったようだけど。
安住を断ち切るために、自分をその場に居づらくするよう考えた。それで、思いついたのが「ダメ人間」演技だった。「こいつは薬局を継がせられない」と親に思わせる。ここまでやれば親も引き留めないだろうという限りを二年間続けた。結婚する相手が当時米国にいたので、毎日のようにエアメールを送ってもらい、「彼女がいないと生きていけない」とも力説した。
・・・よその家のことをとやかく言ってはいけないと思うけど、もっと家族を大事にしてあげて欲しい(詳しくは2月19日の記事を参照)。それから、日本の家族の形態の変化について教育のみを原因とするのは問題を単純化しすぎだし、現在の日本の教育が個人の尊重ばかりを謳っているのかも疑問(一応小学校の学習指導要領を貼っておく)。少なくとも自分はそのような教育を受けてはいないけれど。
岡田 弱者という言い方が悪いとしたら、例えば、貧乏人もフェラーリを買うことはできる。でもそれはフェラーリを買うために他を切り詰めるのが貧乏人の美学ですよね。本田君だって、恋愛貧乏なんだから、家族という一点に絞って恋愛を諦めれば美しさはあると思うし、逆に恋愛に絞って家族を諦めれば美しさもあると思うんです。だけどフェラーリも欲しい、いいものを食いたい、でも自分はあまり働きたくない、稼ぎもない、というのでは、それはダダっ子ですよ。
唐沢 今の30代から下の世代は、生まれたときから幸せになる権利があるのだと、当然のこととして思ったまま成人したんでしょうね。願望と自分の能力や生まれた家の資本力などを秤にかけ、取捨選択して、これとこれは捨てて、これとこれを目標にしよう、この願望が達成すれば自分の人生はまあ、いい人生と言えるだろう、という目標を、だいたい20代半ばまでに、それぞれ設定しますよね。
その中で、それができずに100%自己の欲望を実現させたがる、つまりオトナに脱皮できないのがオタクだとすると、そういうものを引きずったまま「でも二次元だけでならその願望が達成できる」と思ってる人はいるはずですよね。
岡田 そうですね。二次元だけでよかったら、この本を書く必要はなかった。三次元のオンナが「オタクを相手にしたくない」と言ってくれてるんだから、それをいいチャンスだとぴしゃりと抱えて生きていけばいいのに。
唐沢 僕が悪いんじゃない、三次元のオンナどもが悪いんだ、と(笑)。
…このような言われようをするとは本田氏が気の毒である。この記事の前篇で自分は『電波男』に対して批判をしたが、それは「オタク一般の考え方として捉えるには無理がある」というものであって、本田氏が『電波男』を書かざるを得なかった切実さ、個人的な動機は十分に認めている。岡田・唐沢の言い分だと、本田氏がわがままを言ったり努力をしていないかのようだが、『電波男』を読めばそんなことはないとわかるはずなのだが。…というか、よりによって岡田と唐沢にわがままとか自己中とか言われるとは。
岡田 これって男のフェミ宣言みたいなものですよね。フェミニストって「男なんかいらないのよ!」って最終的には書くじゃないですか。アメリカの本格的フェミニストは、「レズが正しい」とまで書いてしまう。だから女だけで子どもを作るためにクローンは必要であるという理論なんだけど、『電波男』は男版のフェミじゃないかなと思うんですね。「女なんか必要ない」と言ってしまえて、だから二次元でいいんだ、だったら男だけでお金が回るシステムを考えた方がいい、と。ただ、フェミというのは同性からも異性からも虐げられる運命にあるんだけど(笑)。
唐沢 本田君の場合、背水の陣というか、希望を自ら断ってますよね。でもまあ、それで裏切り者になるのもよしでしょう。本田君にもなれない人たちから糾弾されるのもよしでしょうけれども。
唐沢 その宣言から敗北したとしても、それは甘美な敗北だと思う。宣言はすべきだと思う。10年位前に、ある知り合いのオタクが「彼女ができた」発言をしたんだけど、そのときに僕は彼に説教したんです。それは、彼女をオタクというものより上位に置いているからであって、それでは絶対に壊れるわけですよ。
岡田 でもそれって「エヴァ」にはまって壊れていく様がロケンロールなように、僕はオタクの趣味よりも現実の彼女の方が上位にあるというのが、ロケンロールでいいと思うんですよ。
唐沢 だからそのロケンロールの美学を確立させてやるためには、「何をやってるんだ!」と怒ってやらないといけない。反逆の末に勝利を勝ち取るのがロケンローラーだし。みんなで「おめでとう!おめでとう!」と言ってちゃダメなんです。
出た。「あえて憎まれ役を演じた」みたいな言い訳。「ガンダム論争」のこともそんな風に言ってるよね。でも、唐沢俊一って天然なんだから何かの役割をこなそうとするのは無理があるんじゃないかと思う。
唐沢 (前略)戦闘機と女の子の両立はありうるし、鉄道と女の子と両立もありうるじゃないですか。女の子にとって、彼が私も愛してくれて電車を愛するというのはいいけど、私を愛して二次元の美少女でヌクというのは、実際の女の子にとってすごく抵抗があるわけですよね。
岡田 鉄ちゃんはオタクだけど、美少女とは関係ない。「俺達は鉄道が好きだから現実の女に用はない」とは言わないですからね。これは美少女ファンの人たちのための本であって、俺や唐沢さんがこの本を認めながらも本質的に共感しないのは、別に美少女ファンでもなんでもないからでしょう。すっごいかわいい女の子とすっごいかわいい戦闘機があったら、僕は最初に女の子の方見ますけど、3秒後には戦闘機の方を見てますから。
唐沢 鉄ちゃんは電車のポスターでヌキはしないけど、美少女ファンはポスターなり画像なりでヌクんだよね。趣味の対象であり、性欲の対象であるというのが、一番の違い。
岡田 でもさっき、この連載担当している女性編集者に、「彼が美少女好きでも大丈夫か」と訊いたら、「一緒に楽しめればいいんですけど」と言うんですよ。一緒に楽しむというのがどういうことかというと、現実の君より好きな相手が二次元の世界にいて、それでヌイてるってことですよ(笑)。それを女の子が認めたら、ただ単にお母さんになっちゃう。すごく話のわかる、セックスもさせてあげるお母さん。男にとっては理想の関係だと思うけど、それは女の子にとって恋愛ではない。
…あー、こりゃ、岡田斗司夫が「萌え」をわからないのは当たり前だわ。なんで「二次元の美少女」が好きなら直ちに「ヌク」ってなるんだろう。美少女が出てくるアニメはアダルトビデオと同じか?っていうかどういう「二次元の美少女」を考えているんだろう?ジブリ系?キュアピーチ?のどっち?『いっしょにとれーにんぐ』のひなこ?ドロッセル?美少女と言ってもいろんな種類があるんだから、はっきりしてくれないと困る。オタクじゃない人がオタクに対してそういう偏見を持つのはよくあるんだけどねえ。…まあ、この2人が「二次元の美少女」を好きだと言った話を聞いたことがないし、「二次元の美少女」が好きなオタクをどこかでバカにしているのかも、とは思うけど。それに岡田の論法だと「現実の女の子」を好きになったり、かわいいと思った時も必ず「ヌク」ことになるけど、それはいいのか。アイドルや女優を好きだったとしても「ヌク」とは限らないだろう。あと、女ターザン好きの山本弘会長は結婚してお子さんまでいるんだから、「二次元の美少女」を好きなことと恋愛・結婚は両立し得るんじゃないの?「山本会長に続け!」とオタクの後輩たちを励ましてみてはどうか。…しかし、岡田と唐沢はシモネタを割りと好んで話すけど、自分の恥をさらすような話は滅多にしないように思う(「リア充」っぷりをアピールしているような気が)。唐沢俊一は『宇宙戦艦ヤマト』のエロパロを同級生に説明した話をしているけど、自分がそれをネタにしたとは言ってないし(詳しくは5月3日の記事を参照)。やっぱり笑われるのが怖いのかなあ。
唐沢 脳内に彼女がいるというのは普通のことで、それで現実の彼女を作っても悪いことではない。でも、どちらかにしないといけない。つまり恋愛の対象はひとりでなければいけないという、悪しき因習ですね。
岡田 「だって、エロゲーのキャラと本当の恋愛できないじゃん」と言うけど、じゃあヨン様と本当の恋愛はできるのか(笑)。そういう意味では、可能性がゼロと、無限にゼロの違いなわけだから、まったく同じです(笑)。「オタクは気持ち悪い」と言われてますけど、そういう意味ではみんな気持ち悪いですよ。
唐沢 恋愛なんか、気持ち悪いものなんですよ(笑)。
「恋愛なんか気持ち悪い」という人もなかなか気持ち悪いと思う。中学生じゃないんだから。
…正直なところ、『電波男』を肴にして好きなことをしゃべっただけ、という気がする(「オタク対談」は毎回そうなのだが)。本田透は真剣にあの本を書いているんだからもう少し親身になってあげればいいのに。…あ、でも、あの2人を相手に人生に関わる重大な相談をするのもマズいような気もするからこれでいいのかw
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