ピッ、ピッ、ピッ、ピッ(例のアレ)。
結局ペースを落とせないのであった。
『パチスロ必勝ガイドNEO』2008年12月号に掲載された『エンサイスロペディア』第19回で唐沢俊一は『24-TWENTY FOUR-』について取り上げている。
…無茶だ。書けるわけがないじゃん。これはネタを振るほうが悪い。…いや、逆にそこを楽しむってのもアリかも知れないなあ。どう考えても唐沢俊一が知らないネタをあえて振ってみて、どのようにごまかすかを楽しむという。
「唐沢先生、今回は『アマガミ』について取り上げていただけないでしょうか?オタクの第一人者である先生なら当然御存知ですよね?」
とか言って。俺が編集者ならやってたかも。というわけで、今回は唐沢俊一の珠玉のごまかし芸をたっぷりとお楽しみください。
パチスロの魅力というのは何か、と言えば、先行きが見えないところだろう。当然で、毎回、今日は必ず勝つ、あるいは必ず負ける、などとわかっていては、面白みも半減する。勝つか負けるか、出がいいかどうか、大当たりになるかどうかは、テクで左右されるとはいえ、神様にしかその結果がわからない。ドラマというものも、先行きが見えてしまっては面白くない。見ている方をしてアッ!と声をあげさせるような展開があって初めて面白い。
いや、そんなわかりきったことを言われても。字数稼ぎ以外の何物でもない。っていうか「当然で」のあたりは文章もおかしい。
しかし、そういう先行きの見えないドラマ展開は、見るものに不安も与える。たとえどんなに中盤はハラハラドキドキしようとも、最後には必ず主人公は敵を倒して勝利し、ヒロインと結ばれ、ハッピーエンドになる……という安心感が、これまでのドラマには求められていた。『007』シリーズなどはまさにそうだろう。ところが、その状況に大きな変化が生れてきたのが(原文ママ)、あの911の同時多発テロである。リアルにあのような大規模な事件を体験したアメリカの国民たちはもはや、ハッピーエンドが予定調和の中に組み込まれるようなドラマにリアリティを感じることができなくなってしまったのである。
『007』でも『女王陛下の007』はハッピーエンドじゃないけどなあ。イアン・フレミングの原作だと『007は二度死ぬ』のラストで行方不明になったジェームス・ボンドは洗脳されてしまうし。「ハッピーエンド」うんぬんにしてもアメリカン・ニューシネマはどうなるんだという感じだ。それに「9・11」以降も「ハッピーエンドが予定調和の中に組み込まれるようなドラマ」を描いた映画はアメリカでも相変わらずヒットしているのだが(もちろん「9・11」の影響下で作られた作品もヒットしているが)。
『24-TWENTY FOUR-』(トゥエンティーフォー)は、まさにそのような時期に製作され、そのような時代の欲求に合わせた“先行きの見えない”ドラマ作りで人気を博したドラマである。初放映は、あの911テロが起った2001年9月から、わずか3ヶ月後の11月。主人公のジャック・バウアーの職業はアメリカのテロ対策ユニットCTUの捜査員である。……ここらがアメリカという国の凄いところだと思うのだが、あれだけ国家の根幹をゆるがす事件が起ったあとで、すぐにそれを取り込んだドラマを作ってしまう。
…さて、この文章にはおかしなところがいくつかある。まず、TVドラマは2ヶ月ではとても作れない、ということだ。実際、『24-TWENTY FOUR-』のプロデューサーであるジョエル・サーナウ(Joel Surnow)が『24-TWENTY FOUR-』のアイディアを思いついたのは2000年の初夏のことである。サーナウによれば「9・11」を意識して番組を作るようになったのはシーズン2以降だというが、シーズン1は大統領候補暗殺をめぐる攻防を描いているから「9・11」の影響は考えにくいんじゃないかと。それから基本的なミスだが、『24-TWENTY FOUR-』の放映開始は「9・11」の2ヶ月後の11月である。編集者もちゃんとチェックしてほしい。
しかも、取り込んだだけではなく、大いなる予言まで行っている。この作品の第一シリーズは、アメリカ初の黒人大統領候補の暗殺計画を阻止できるか、が大きな鍵になっているでのある。現在、民主党の大統領候補に黒人のバラク・オバマ氏が立っているが(引用者註 このコラムが雑誌に掲載されたのは2008年10月下旬)、その7年も前にである。
この回のテーマである『24-TWENTY FOUR-』は今や誰もが知っている大ヒット作品である。したがって、唐沢俊一の立場から考えるとコラムで取り上げるときには独特の切り口から書く必要があって、多少マニアックなネタを書くことが許されるむしろおいしいテーマだったと思う。『24-TWENTY FOUR-』のパーマー大統領がオバマ大統領の誕生を予言していたというのはいいとしても、以前にも映画やドラマで黒人大統領が描かれていたことに触れたほうがいいだろう。わかりやすいのは『ディープ・インパクト』のモーガン・フリーマン、あとだいぶ昔の映画だと『ザ・マン/大統領の椅子』というのもある。この映画ではジェームス・アール・ジョーンズが大統領になる。…ダース・ベイダーの中の人が大統領になるのはちょっと凄いな(実際にダース・ベイダーの中に入っているのはデビッド・プラウズ)。ちなみにこの映画は、他にマーティン・バルサム、バージェス・メレディスが出演していて、監督・ジョセフ・サージェント、脚本・ロッド・サーリングという結構凄いスタッフなので、「裏モノ日記」で俳優のトリビアを書きまくっている唐沢俊一ならいくらでも語りようがあったと思うのだが。バージェス・メレディスは一般的には『ロッキー』のミッキーだけど、TV版『バットマン』のペンギンもやってるし。
デンゼル・ワシントンもそのうちやりそうだなあ。
とにかく、このドラマはドラマの中の物語が現実と同じ時間で進行する。一回の放送時間は1時間(CMが入るので、実際にはやや短いが)で、1シーズンは24話で完結。つまり、通してみれば1シーズンは24時間なわけで、これがタイトルの由来になっている。そして、物語はいくつもの筋が枝分かれし、それらが同時にからみあいながら進行していく。
これも何を今更、という話である。ここにトリビアを付け加えるとしたら、「ドラマの中の物語が現実と同じ時間で進行する」作品が他にもあるということだろうか。『真昼の決闘』、ヒッチコックの『ロープ』、ジョニー・デップ主演の『ニック・オブ・タイム』…おっと、ウィキペディアの丸写しと思われるのも嫌だからw、もうひとつロバート・ワイズの『罠』も挙げておこう。
『パルプ・フィクション』の元ネタ(ブルース・ウィリスのパート)なんじゃないか?と観たときに思ったけど。
それまで、テレビドラマというのは、家事をしながらの“ながら見”で粗筋が理解できるような、ゆるいドラマがヒットする、と言われてきた。確かに日本のホームドラマなどには、そういうものが多い。アメリカでも基本はそうだった。
ところがこの『24』は、腰を据えてじっくりと見ないことには話がどう進んでいくのか、さっぱりわからない。主人公の家族ですら、あっさりと命を奪われ、また腹心の部下が敵に内通していることがわかったりする。いや、人気が出て、シーズンが進んでいくにつれ、主人公自体がヘロイン中毒になったり、日雇い労働者にまで落ちぶれたり、まったく普通のドラマの常識から外れた、先がどうなるかわからないストーリィ展開を見せるのである。アメリカのドラマはあきらかに進化し、形を変えている。それを証明したのがこの『24』だ。
「最近のドラマは話が早くてついていけんのう」って言ってるおじいちゃんみたいだ。…いや、唐沢俊一は『ER緊急救命室』とか見てないのかなあ?あれだって展開が早いうえに複数のエピソードが同時に進行していくからじっくり見なきゃいけなかったんだけど。アメリカのドラマに対する認識が10年くらい遅れているような。下手したらうちの家族よりアメリカのドラマにうといかも知れない。実家では『クリミナル・マインド』とか『CSI:マイアミ』(ホレイショさんがカッコいい)を毎週見てるもんなあ。『刑事コロンボ』もいいけど、たまには最近のドラマも観た方がいいよ。
さて、逆に言えばこのドラマ、パチスロの台として、これほど格好なネタはないだろうと思わせる。海外ドラマを元にしたパチスロ台はそんなにないが、このドラマはまさにパチスロになるために生れたと言って過言でないだろう。ジャックや大統領の決断が自分、いや国の運命を決めるというような演出のシーンがとりいれられ、またミドルボーナス後に突入するチャンスゾーンが24ゲームの間、RTの高確率になるなど、ドラマと密接に関係させている演出は、作り手がよほどこのドラマにハマっているな、と、ファンをニヤリとさせるだろう。
…結局、「パチスロも『24-TWENTY FOUR-』もハラハラするよね!」という話しかしてないな。まあ、観ていないドラマの紹介をしなくちゃいけないのは大変だったろうけど。…テーマになった作品を知りもしないで書いていることに驚かなくなってしまったのが哀しいなあ。ジャック・バウアーの写真についたキャプションもどうかと思う。
『レッドカーペット』などのお笑い番組でモノマネが人気ギャグとして定着するほど、日本でも人気となった。こういうのは刑事コロンボ以来の快挙。
ジャック・バウアーのモノマネといえば、どきどきキャンプの岸学だけど、それよりなだぎ武のディラン・マッケイのモノマネの方が早くないか?あと、唐沢俊一は吹き替えにも詳しいらしいけど、ジャック・バウアーの声優を担当している小山力也について触れていないのもどうなんだろう。ジョージ・クルーニーのフィックスなのは有名だし、特撮ファンには『仮面ライダーBLACKRX』の霞のジョー、アニメファンには「うたわれるものらじお」でのモテモテぶりが有名である(『うたわれるもの』はゲームもアニメもかなり面白いけど)。マカビンビン。…もしかすると、唐沢は洋画の吹き替えについても、最近の声優には詳しくないのかなあ?山寺宏一すら危ないかもしれない。まあ、吹き替えのことはとり・みきにまかせておいたほうがいいのかも。
…唐沢俊一は自分の力を実際よりも大きなものに見せるテクニックには長けていたのだと思う。そのテクニックについては後の記事で説明するつもりだが、特定の作品について突っ込んだ批評をしなかったのもそのせいなのかもしれない。批評を見ればどの程度の知識があるのか、どの程度愛情があるのか一発で分かってしまうのだ。みなさんも新聞や雑誌の批評を読んで「あー、この人わかってないな」「本当は好きじゃないんだな」と感じたことがあるだろう。新聞や雑誌の記者ならしょうがなく書くこともあるだろうけど、オタクの第一人者だと思われている人がそういうコラムを書くのはどうかと思う。今回取り上げた『24-TWENTY FOUR-』のコラムなんか典型的な「よくわかってない人が書いたコラム」だと思うし、記事の中で書いたようにいくらでもネタをふくらませられるじゃん!と思うのだが。ま、今回のコラムのおかげで唐沢が「最近の海外ドラマ・吹き替え」に詳しくないことはわかってしまったのだが(「昔の海外ドラマ・吹き替え」だって詳しいかどうか)。あとどれくらい手持ちのカードが残っているんだろう。
※追記 藤岡真さん、einさんのご指摘に基づき追記しておきました。
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