唐沢俊一検証blog

唐沢俊一氏の検証をしてきたブログ(更新は終了しました)

「パクー空間にひきずりこめ〜」

「パクー空間とは、唐沢俊一がインターネットを操作することによって発生する一種のブラックホールである。パクー空間では、唐沢俊一は3倍にパワーアップするのだ!」(ナレーション・政宗一成


 今回も『エンサイスロペディア』を取り上げるが、はっきり言ってこのコラムは人選ミスである。なぜなら、唐沢俊一がフォローできるオタク関係のネタは70年代までが限度で、それ以降はほとんどついていけていないからだ。最近のアニメもどんどんパチンコやパチスロになっている状況には明らかに不向きである。唐沢俊一も無理をしないで鶴岡法斎氏にでも仕事をまわせばいいのに(鶴岡氏はパチンコ漫画の原作をしていたらしいし)。前回取り上げた『アカギ』も相当なものだったが(詳しくは3月29日の記事を参照)、今回のコラムは心底ヒドいと思ってしまった。
 それでは現在発売中の「パチスロ必勝ガイドNEO」5月号掲載の『エンサイスロペディア』第24回『宇宙刑事ギャバン』を紹介する。

 日本を代表するスーパーヒーローシリーズと言えば『ウルトラマン』と『仮面ライダー』であるが、この二作が共に、一旦その放映を中断したことがあった。1981年ウルトラマンシリーズが『ウルトラマン80』で終了、仮面ライダーシリーズが『仮面ライダースーパー1』で終了し、再開までライダーは(特別編が制作されてはいるが)6年、ウルトラマンに至っては15年もの空白期間が生じている。その間、日本のスーパーヒーローものシーンはかなり寂しい状況になったわけである。シリーズの終了は、視聴率などの低迷が原因であり、いわばスーパーヒーローものはその使命を終えた、と誰もが考えたことだろう。

 「誰もが」って特撮ファンもそう考えていたのだろうか。自分は当時小学生だったけど、『仮面ライダーBLACK』が始まった時は凄く嬉しかったことをよく覚えている。ウルトラマン仮面ライダーの復活を待ち望んでいたファンは多かったと思うけど。…っていうか、ウルトラとライダーが休止している間もスーパー戦隊シリーズは続いていたんだけど、あれは「スーパーヒーローもの」じゃないのか?今やってる『侍戦隊シンケンジャー』は「スーパーヒーロータイム」で放送されてるけど。

 しかし、東映テレビ部はそうは考えなかった。“ヒーローものが少なくなった今こそ、新ヒーローを割り込ませるチャンス”ととらえたのである。
 もちろん、これは冒険であった。制作費もそれまでのライダーや戦隊ものとは段違いの巨費を投じ、失敗すれば東映テレビ部のスタッフ全員が首になるという、ギリギリのところでの賭けで誕生したのが、後に、“メタルヒーロー”ものとして知られるようになるシリーズの第一号、『宇宙刑事ギャバン』であった。
 そしてその賭けは成功を収める。タイツやゴム製スーツなどを身にまとった、どこか手作り感のあったそれまでの東映ヒーローからイメージを一新した、全身メタリックなデザインのギャバンは、ビデオ合成を多用したスピーディかつダイナミックなアクション、シンセサイザーをメインにした音楽の効果もあって、子供たちの心をわしづかみにした。
 状況が不利なときこそチャレンジすることが大事、というこの作品の成功の教訓は、昨今の不景気の時代にわれわれを勇気づけてくれるものだが、そのチャレンジを決意したのは、東映テレビ部の吉川進、折田至の二人のプロデューサーだった。

 「状況が不利なときこそ」以下には笑ってしまった。何その「宇宙刑事ギャバンに学ぶ不況の生き抜き方」みたいな文章。ビジネス雑誌の中吊り広告で徳川家康に学ぶ人心掌握マニュアル/“鳴くまで待とう”の精神で!」「木下藤吉郎に学ぶ男の出世術/“リストラ戦国時代”を生き残れ!」とかあるのを見て「そんなの参考になるのか?」とよく思うのだが、それに近いものがある。特撮に夢中になってた男の子も働き盛りになってるんだから、唐沢俊一もビジネス雑誌に売り込みをかけたらいいんじゃない?ウスい人相手なら商売になるかもよ。…しかし、唐沢は『社会派くんがゆく!』で「不況のときは何もしないのが一番なのよ」とか真逆のことを言いそうではあるのだが。

 東映テレビ部は『仮面ライダー』や『秘密戦隊ゴレンジャー』を作り上げた伝説の人、平山亨が現場を離れた後、低迷を続けた。吉川と折田コンビで制作した、戦隊もの第二弾の『ジャッカー電撃隊』は視聴率低迷で打ち切りとなり、ライダーシリーズも終るという状態で、彼らの立場は崖っぷちにあったと言って過言でない。この時期に新シリーズを立ち上げるという、ある意味暴挙に二人が出たのは、そこにしか生き延びる道がなかったからかもしれない。

 折田氏は『ジャッカー電撃隊』をプロデュースしていない。吉川・折田コンビで制作されたのは『バトルフィーバーJ』で、吉川氏はその後も『太陽戦隊サンバルカン』までスーパー戦隊シリーズをプロデュースしているので、「崖っぷちにあったと言って過言でない」というのは過言だろう。あと、平山氏も『ジャッカー電撃隊』に企画協力として参加している(『ジャッカー電撃隊』キャストインタビューを参照)。誰かを「伝説の人」にしてしまうのは歴史を歪めるおそれがあるのでやめておいたほうがいい。

 結果、ずっと事務畑を歩いてきた吉川氏の計算と、現場(監督)出身の折田氏の感覚が見事にマッチし、ギャバンはそれまでの東映ものにない、クールなヒーローとして誕生する。そして、主役・一条寺烈役に抜擢された大葉健二は、変身前の全てのアクションを吹替えなしで行うという、JACのリーダーとしての面目躍如の体当たり演技により、藤岡弘、宮内洋にならぶアクションヒーロースターの代表となった。ちなみに、この作品でギャバンの父・ボイサー役でゲスト出演していた千葉真一と大葉が、クエンティン・タランティーノ監督の映画『キル・ビル』で共演していたのはご承知の通り。ギャバンファンは思わず快哉を叫んだことだろう。

 大葉健二千葉真一が『キル・ビル』に出演したのはタランティーノが『影の軍団Ⅳ』のファンだったから。それは千葉真一の役名が「服部半蔵」であることからもわかる。あと、大葉健二が『ギャバン』以前にバトルケニアとデンジブルーを演じていたことを書いていないのは不親切。なお宮内洋は『ギャバン』に宇宙刑事アランとしてゲスト出演している(さらに余談として宮内洋がゲスト出演した回に潮健児が敵として登場している)。あと、「クール」というのは「冷静」じゃなくて「かっこいい」の方だよね。烈さんは「熱血」だもの。

 そして、このシリーズに花を添えたのは、ヒロインたちのお色気である。この『ギャバン』では叶和貴子演じる女宇宙刑事ミミーが大人の魅力をふりまいて(しかし、和服美人女優として売りだした人なのに、これまたえらい方針変換なキャスティングである)いたし、コム長官の秘書役のマリーン(名代杏子)とのお色気対決、などという回もあった。今回のパチスロ演出でも、そこらは充分に楽しめるはずである。

 「このシリーズに花を添えたのは、ヒロインたちのお色気である」と書いておきながら、宇宙刑事シャイダー』のアニーに触れていないのが不可解。特撮ファンでなくてもアニーは知ってると思うんだけど。それから「お色気対決」なんだけど…そんな回あったっけ?ミミーとマリーンが張り合うのは、第5話で猛毒に倒れた烈を看病するときくらいだったような。キャプションでも

ミミー役の叶和貴子が仕事上のスケジュールで、しばらく番組を離れたことがあり、その間の助手役をマリーンが務めたが、おかげで烈をめぐる女同士の関係でドラマが盛り上がった。

とあるけど、そんなことはないと思うけどなあ。ミミーが戻ってきたらすぐにボイサーを探す話になるから、「女同士の関係」でドラマを盛り上げる必要なんかなかったんだけど。…本当に『ギャバン』をちゃんと見ているのか?

…もうお気づきの人も多いと思うが、今回のコラムは『ギャバン』の内容にほとんど触れていないのだ。特撮ファンが『ギャバン』について語るときに間違いなく出てくるであろうキーワードが全然出てこないのにビックリする。「蒸着プロセス」「魔空空間」「レーザーブレード」「ドルギラン」「政宗一成のナレーション」…これらの言葉が出てこない『ギャバン』の紹介があるのだろうか?制作秘話の前に書くべきことはたくさんあるはずである飯塚昭三とつきあいがあるんだったら、ドン・ホラーの声優交代について触れるとか。辛うじて音楽については触れているが、それにしたって渡辺宙明」「串田アキラという名前を出していないのがわからない。「具体的な名前を出したほうが読者にイメージが伝わりますよ」とか編集者はアドバイスしないのか?…なんで「文筆業サバイバル塾」の主宰者にこんなことを言わなくちゃいけないのか。『アメトーーク』で「華の47年組」はみんな『ギャバン』の主題歌を歌えたというのに。唐沢俊一ワッキー並みか?(土田晃之に冷たい目で見られるの?)バナナマン日村みたく「♪サムシングギャバーン」とか唄えればいいけど。イーイー!
 それから、烈が命を救った伊賀電が最終回で宇宙刑事シャリバンとして登場し、ギャバンのピンチを救ったことを書いていないのもわからない(あのシーンは特ヲタなら絶対に燃える!)。これを説明すれば「宇宙刑事シリーズ」「メタルヒーローシリーズ」の説明もしやすいはずなのに。次回作『宇宙刑事シャリバン』でギャバンは隊長として活躍しているんだから(そして最終回では蒸着してシャリバンと共に決戦に臨むのである!)。

 危機的状況が一転してチャンスになる、というギャバン制作のエピソードはパチスロのプレイにも通じるものがある。大いなるチャレンジ精神で台に向かってもらいたい。

 自分はいい年をして特撮やマンガを本気で見ていて、つらくなった時に「あのヒーローは最後まであきらめなかったじゃないか!」と筋肉少女帯の『221B戦記』みたいなことを考えて自分自身を奮い立たせているのだが、「本編のエピソード」を素っ飛ばして「制作のエピソード」を語るのはとても理解できない。いや、そりゃあ、個人的に特撮の作り手で言えば金城哲夫には結構思い入れがあるけど、それだって『ウルトラマン』があってこその話だし、他の制作秘話にしたって事情は同じである。『週刊昭和』もそうだったが(詳しくは3月17日の記事を参照)、まず本編の話をしてほしい。特撮をよく知らない人を対象としているのならなおさら本編について語る必要があるのではないだろうか?


…個人的には『エンサイスロペディア』はとても危険なコラムである。『アカギ』といい『ギャバン』といい、自分が好きな作品が出てくると、唐沢俊一がまったくわかっていない(好意的に見てもきわめてウスい)ことがよくわかってしまって、わずかに残っていた唐沢への敬意がみるみるうちに削られていってしまうのだ(「まだ敬意が残ってたの?」と呆れられてもしょうがないけど)。本編の話をせずに周辺の話ばかりしているのはごまかしとしか映らない唐沢俊一を検証していると「ごまかし」の手口に自然と詳しくなってしまうんだけどね。…業界で長くやってきた人にこんなことを告げなくてはならないのがまことに残念なのだが、特撮でもマンガでも何かを語るためには最低限本編に触れる必要があるのだ。作品のデータはネットですぐに拾えるから知ったかぶりをすることはできるだろう。しかし、本編を知らないままだとデータは生きないのだ。本編に触れ、データを調べ、また本編に戻る…好きならそれくらいはやるはずだし、ましてやプロのライターなのだ。あたりまえのことだろう。コラムを書く前にはTSUTAYAでDVDをまとめて借りて観るなり、マンガ喫茶で一気に読むなりしてほしい。…しかし、そういうレベルの仕事だったら、『パチスロ必勝ガイドNEO』のアルバイトにやらせたほうがいいのかもなあ。


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服部半蔵 影の軍団 BOX (初回限定生産) [DVD]

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