唐沢俊一検証blog

唐沢俊一氏の検証をしてきたブログ(更新は終了しました)

うろおぼえがヘビー。

ガセビアが無限に垂れ流されること。


唐沢商会『怪体新書』(光文社)P.19より。

史上最も縁起がいい、とされているホクロは漢の高祖、劉邦のホクロ。ももの内側のところに百二十八個(この数字ウロ覚え)ズラリと並んでいたそうで
「このホクロの意味するところによって劉邦は一介の町の無頼漢から天下をとって漢王朝を打ち立てたのである」

 劉邦は左の太股に72個のホクロがあったとされている『史記』高祖本紀にはこのようにある。

高祖為人、隆準而龍顔、
美須髯、左股有七十二黒子

で、この「72」という数が実は重要で、劉邦が「赤帝」の子であるという話の根拠の一つなのだ。「赤帝」は五行思想において火を司る帝王のこと(秦の帝王は「白帝」なので、五行思想で白(金)に勝つ赤(火)が選ばれたという説がある)。「中国の日本研究」より。

郭沫若に「前に古人なく、後に来者なし」と激賞された近代きっての詩人聞一多は、かつて季鎮淮らと共作論文『七十二』を執筆し、そのなかで「七十二」という数字は一年の三百六十日を五等分したもので、五行思想に由来すると主張している。つまり、五行の木火土金水は春、夏、土用、秋、冬にあたり、それぞれ七十二日が割り当てられているという。

水滸伝』の「百八星」も天罡星(てんこうせい)三十六星と地煞星(ちさつせい)七十二星に分けられるしね。だから、ホクロの数をちゃんと覚えていないとなぜ「縁起がいい」かもわからないので、トリビアの面白さはほとんどなくなってしまうのだ。

…このガセビアの問題点はもうひとつあって、「この数字ウロ覚え」なのにそのまま堂々と書いてしまっている点である。『怪体新書』には他にもこのような記述がある。P.50より。

「えー、小便小僧というのはいわれがあって、昔ベルギーだかオランダだかで、火事だったかダムの決壊だったかを、子供がどうこうしたとかいう話であったと思うが、すみません全部忘れました」
「それほどおもしろい話でもなかったと思うのでまあいいか」

「小便小僧」の由来は『トリビアの泉』でも紹介されているのだが(No.271 )、「すみません全部忘れました」とスーパーバイズしたんだろうか。ギャグのつもりで書いていたとしてもあまり面白くないし。唐沢俊一は「雑学はアヤシゲなところが魅力」とよく言っているが、単に適当なだけという気もする。唐沢が披露している雑学は少し調べれば本当のことがすぐわかるものばかりなんだから、それを「アヤシゲ」なままにしておく意味ってあるんだろうか?むしろ逆に「アヤシゲ」なものの真相を解き明かす点に雑学の面白さがあるように思うのだが。
 
 以下は個人的な考えだが、唐沢俊一の雑学の紹介というのは、「唐沢商会」においてはまだマシなのだと思う。「唐沢商会」は、唐沢俊一が雑学を披露し、それに唐沢なをきがツッコミを入れるスタイル(「ふーん」「ホントか?」「どうでもいいよ」という具合に)なので、読者が雑学をそのまま信じてしまう可能性は低いと思われるのだ。…だからと言って、適当なことを書き散らしていいわけじゃないのは言うまでもないが。それに対して、唐沢俊一単独の文章の場合、ツッコミがないものだから読者は雑学の内容をそのまま真実だと信じてしまう可能性が高い。スタイルの違いを考慮せずに「唐沢商会」と同じように雑学を適当に書いてしまったのがマズかったのかもしれない。

※追記 gurenekoさんのご指摘を受けて訂正しました。

怪体新書

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史記 本紀 (新書漢文大系 17)

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完訳 水滸伝〈1〉 (岩波文庫)

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