唐沢俊一検証blog

唐沢俊一氏の検証をしてきたブログ(更新は終了しました)

拝啓ASAHI新聞殿。

 「朝日新聞」2007年5月27日で唐沢俊一がジョナサン・カーシュ『聖なる妄想の歴史』(柏書房)を書評していたにもかかわらず、その後で同書をちゃんと読んでいたとは思えないミスをしていたことは1月30日の記事で指摘したが、その後新たな問題があったことに気づいたので報告しておく。まずは唐沢の書評を引用する。

 レーガン米大統領の日記の中に、1981年6月にイスラエルイラクの原子炉を爆撃した時、「ハルマゲドンは近いと本当に思った」という記述があると米誌が報じたのは記憶に新しい。ハルマゲドンとは、善と悪の最終戦争を意味する宗教用語である。日本でもこの言葉を教義に取り入れたカルト宗教団体が無差別殺人事件を起こしたことがあった。

 多くの日本人にとっては妄想としか思えない思想だが、レーガン以降の大統領全員(!)が、この教えを真実として信じる傾向の強い教派(再生派)に属すると聞くと、ちょっとぞっとせざるを得ない。信仰は自由とはいえ、アニメやSF映画に描かれるようなことを世界最強の国家の指導者が信じているかもしれないのだ。

 本書はそのハルマゲドン思想が記された預言書であるヨハネ黙示録が、どのように世界に広まり、また、人々がいかに現実の状況をその預言にあてはめて理解しようとしたかを、西欧史から説き起こしている。ユニークな文化史として楽しむか、あるいは訳者が奨(すす)めるように、現代世界の抱える問題提起の書として読むか。いずれにせよ、日本人がいかにこの方面において無知かを思い知らされる。

 まず問題となるのは「レーガン以降の大統領全員(!)が、この教えを真実として信じる傾向の強い教派(再生派)に属する」という部分だが、1月30日の記事では『聖なる妄想の歴史』の記述を唐沢が曲解したかのように書いたが、その後改めて調べたところ、そもそも『聖なる妄想の歴史』が間違っていて、唐沢はそれを鵜呑みにしたというのが本当のところであると分かった。…しかし、そうなると事態は余計に深刻である。何故なら、「と学会」運営委員である唐沢がトンデモな記述を見逃したばかりかそのまま鵜呑みにして陰謀論が流布するのを手助けしてしまったことになるのだから。
 正直、唐沢俊一が『聖なる妄想の歴史』をちゃんと読み通したとは思えないのだ。『聖なる妄想の歴史』という本にはヘンなところがあって、たとえばP.268にはこんなことが書かれている。

セックス・ピストルズパンク・ロック・ソング「アイアム・アンティクライスト」

 もちろん『アナーキー・イン・ザ・U.K.』の誤りである。こういう間違いをしている本に書かれていることをそのまま受け取ってはいけないのだが、洋楽の知識が皆無に等しいうえにイギリスの知識が間違いだらけ唐沢俊一が気づけなかったとしても無理はないのかもしれない(詳しくは2008年10月27日および10月30日の記事を参照)。
 それに加えて唐沢が書評で書いていることは『聖なる妄想の歴史』の前書きで訳者の松田和也氏が書いていることそのままなのである。P.12〜13より。

 第七章で詳述されるように、『黙示録』はその誕生から二千年の時を経て、レーガン大統領によってホワイトハウスに持ち込まれ、政策決定の指針として利用されるに至ります。そしてレーガン大統領ほど極端ではないものの、実はそれ以後も、アメリカの外交・内政政策には大なり小なり『黙示録』の影響を見て取ることができる、と著者は暗示します。例えば、レーガン以後の大統領は全員がヽヽヽ「再生派」キリスト教徒を名乗っていると言うのです。

 前書きでは「全員が」に傍点が振られているのに対し、唐沢の書評では「全員(!)」となっている。唐沢がこの前書きの内容をそのまま書いていることは明らかである。『B級ノワール論』のときもそうだったが(詳しくは2月3日の記事を参照)前書きやオビに書かれていることを書評でそのまま書いてどうするんだろう

 唐沢俊一にひとつだけ同情するとしたら、『聖なる妄想の歴史』は大新聞の紙面で批評するのが難しい本である、とは言えるかもしれない。本の大半がキリスト教の歴史を詳しく紹介する内容なので、一般読者に内容を伝えるのは難しいかもしれないのだ。多少文学の素養があればロレンスの『黙示録論(現代人は愛しうるか)』をからめることもできたかもしれないが、それを唐沢俊一に期待するのは酷だろうか。
 しかし、『聖なる妄想の歴史』の最終章は『黙示録』とポップ・カルチャーとの関係が書かれていて、『博士の異常な愛情』『オーメン』といった映画の名前が挙げられ、さらには『渚にて』『怒りの神』といったSF小説の名前も出てくる。…おわかりだろうか?つまり、映画ファン、SFファンに向かって「さあ、どうぞお好きに論じてください」と言わんばかりに絶好球が投じられているのである。にもかかわらず唐沢俊一はそれを見逃しているのだ。…本当にちゃんと読んだのか?と疑問に感じてしまったとしても無理はないだろう。
 
 「と学会」運営委員なのにトンデモな記述をスルーし、SFファン・映画ファンを名乗りながらそれに関連する記述もスルー。書評委員なのに前書きの内容をそのまま書く。一体何のために書評委員になったんだろう。しかも任期中に不祥事を起こして謹慎するし。
 唐沢俊一は3月で任期切れらしいが、「しかし、だからといって」盗用事件以降も唐沢を起用し続けた朝日新聞の責任や、唐沢を委員に推薦した木元俊宏氏の責任が消えてなくなるわけではないので、そこのところはお忘れなきよう。

聖なる妄想の歴史―世界一危険な書物の謎を説く

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勝手にしやがれ

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黙示録論 (ちくま学芸文庫)

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渚にて―人類最後の日 (創元SF文庫)

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怒りの神 (1982年) (サンリオSF文庫)

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