唐沢俊一検証blog

唐沢俊一氏の検証をしてきたブログ(更新は終了しました)

ガセとハルマゲドン。

 だいぶ昔の記事だが、2007年5月27日の『朝日新聞』に掲載された唐沢俊一によるジョナサン・カーシュ『聖なる妄想の歴史』(柏書房)の書評より。

 レーガン米大統領の日記の中に、1981年6月にイスラエルイラクの原子炉を爆撃した時、「ハルマゲドンは近いと本当に思った」という記述があると米誌が報じたのは記憶に新しい。ハルマゲドンとは、善と悪の最終戦争を意味する宗教用語である。日本でもこの言葉を教義に取り入れたカルト宗教団体が無差別殺人事件を起こしたことがあった。

 多くの日本人にとっては妄想としか思えない思想だが、レーガン以降の大統領全員(!)が、この教えを真実として信じる傾向の強い教派(再生派)に属すると聞くと、ちょっとぞっとせざるを得ない。信仰は自由とはいえ、アニメやSF映画に描かれるようなことを世界最強の国家の指導者が信じているかもしれないのだ。

『聖なる妄想の歴史』P.271より。

 ロナルド・レーガン以後、世界の終末は近いという個人的信条を彼ほどあからさまに語ったアメリカの大統領は現れていない。だが同時に、一方ではレーガン以後、すべてのアメリカ大統領がキリスト教「再生派」を名乗っているのである。

 「名乗っている」と「属している」とでは違うんじゃないか?…というか「真実として信じる傾向の強い」ってどういうことなんだろう。「ハルマゲドンはあるような気がする」とかそんな感じなんだろうか。それでは最近のアメリカ大統領が「属している」キリスト教の宗派を見てみよう。

カーター=南部バプティスト
レーガン=長老派
ブッシュ=監督派(エピスコパリアン)
クリントン=南部バプティスト
ブッシュJr=メソジスト
オバマプロテスタント

 
 見事にバラバラである。それに実は「再生派」というか、キリスト教福音主義の運動は大統領の宗派と必ずしもつながっているわけではない越智道雄町山智浩オバマ・ショック』(集英社新書)P.41より。

町山 フォルウェル(引用者註 福音派のリーダーであるジェリー・フォルウェル)は八〇年の大統領選挙では、福音派のカーター大統領よりも、そうでないレーガンを支持しましたね。
越智 カーターはやはりリベラルで政教分離を守ろうとしたからですね。福音派には彼のようなリベラルもいるんです。ところがレーガンは積極的に福音派に近づいて、彼らの求める「伝統への回帰」を掲げ、レーガン政権以降、福音派共和党の最大の支持基盤になりました。

というわけである。今回の大統領選挙で福音派がマケインを支持するかどうかでモメたのと同じようなことか(マケインは南部バプティストに属していて政治的にリベラルな点がカーターと似ている)。『聖なる妄想の歴史』の中で「「再生派」を名乗っている」とあるのは、支持を得るために福音主義に近づいたという意味だと考えた方がいいのではないか(それに『聖なる妄想の歴史』のこの点の記述には疑問点もある)。それ以前にレーガン以降の大統領のやったことって結構バラバラで「再生派」の宗旨と一致しているとは思えないんだけど。

 本書はそのハルマゲドン思想が記された預言書であるヨハネ黙示録が、どのように世界に広まり、また、人々がいかに現実の状況をその預言にあてはめて理解しようとしたかを、西欧史から説き起こしている。ユニークな文化史として楽しむか、あるいは訳者が奨(すす)めるように、現代世界の抱える問題提起の書として読むか。いずれにせよ、日本人がいかにこの方面において無知かを思い知らされる。

と、唐沢俊一は書いているけど、いや、本当に無知なのは付け焼刃の知識であれこれ論じようとする人のことだろう。大統領の信仰だけで歴史が動いているかのような奇妙な話をしちゃうのはどうなのよ。

…さて、実は唐沢俊一は過去にも「大統領の信仰だけで歴史が動いているかのような奇妙な話」をしている。去年12月12日の記事で紹介した『カルトの泉』(ミリオン出版)に収録されている「日本への原爆投下はキリスト教原理主義が原因」という話である。この話がおかしいのは既に指摘してあるが、もうひとつおかしいのは『聖なる妄想の歴史』の記述と矛盾していることだ。『聖なる妄想の歴史』では、アメリカ大統領として初めて「キリスト教原理主義」的な立場を取り、「ハルマゲドン」という概念をホワイトハウスに持ち込んだのはレーガンであるとされているのである。『聖なる妄想の歴史』をちゃんと読んでいるのなら、その後で書かれた(2008年11月発売)『カルトの泉』にも生かせたはずなんだが…。そして、もうひとつ『カルトの泉』には『聖なる妄想の歴史』の内容と矛盾する箇所がある。カルト集団「ヘヴンズ・ゲート」の信者達が本当は睡眠薬フェノバルビタールを飲んで自殺したにもかかわらず、『カルトの泉』ではシアン化合物を飲んで自殺したとされていたのだ(詳しくは去年12月4日の記事を参照)。『聖なる妄想の歴史』P.300〜301より。

それで信者三十九人は鞄に荷物を詰め、真新しいテニスシューズを履き、ポケットに五ドル札と二十五セント銀貨のパックを詰め、フェノバルビタールを混ぜたアップルソースを飲んだ。

このように事実に沿った記述がされている。にもかかわらずどうして『カルトの泉』では間違えたのだろう。「『聖なる妄想の歴史』を読んでいないのに書評を書いてしまった」のか、「一応読んだけれど忘れてしまった」のか、いずれにしても、朝日新聞書評委員の惨状に読書家のはしくれとして情けない気分でいっぱいだ。

※一部追記しました。

ラストハルマゲドン 【PCエンジン】

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聖なる妄想の歴史―世界一危険な書物の謎を説く

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オバマ・ショック (集英社新書 477A)

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カルトの泉~オカルトと猟奇事件~

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