唐沢俊一検証blog

唐沢俊一氏の検証をしてきたブログ(更新は終了しました)

偽色のトロツキー&アドルムに告ぐ。

唐沢俊一『猟奇の社怪史』(ミリオン出版)P.117

昭和二年(一九二七年)のこの時代、「セックス」という言葉は「モダンボーイ」「モダンガール」「トロツキスト」「アドルム」などとともに、ずいぶんとハイカラな香り漂う、西欧風のちょっとおしゃれなインテリ語であったのだ。

 「モダンボーイ」「モダンガール」はいいとしても、後の二つは「昭和二年」の「インテリ語」として適切なんだろうか。
 まず、「トロツキスト」というのはそもそもスターリン1930年代に粛清を行ったときに反対派に対して用いていた呼称である(実際にトロツキーの信奉者であるか否か関係なかったようだ)。後々スターリンの批判者が自覚的に「トロツキスト」を名乗るようになったわけである。それに日本で初めてトロツキストの団体が出来たのは第二次世界大戦後のことである。
 次に「アドルム」。睡眠薬「アドルム」が流行したのは第二次世界大戦のことである。坂口安吾が中毒になったのは有名だし、田中英光も中毒になっている。
正宗白鳥が小説『アドルム』を発表したのは1950年、上林暁が『聖書とアドルム』を発表したのは1951年である。昭和初期に流行した睡眠薬として挙げるなら「カルモチン」の方がいいだろう。太宰治は1929年にカルモチンを使って自殺を図っていて、金子みすゞは1930年にカルモチンを使って自殺している。

…「昭和初期」も「戦後」もゴッチャにするなんて、本当に昔のことに詳しいのか?と疑わしくなってくる。アイドルがヒトラーのことを知らないことに愕然とする前に自分の知識をなんとかしたほうがいいと思う。

猟奇の社怪史

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虹色のトロツキー (1) (中公文庫―コミック版)

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アドルフに告ぐ(1) (手塚治虫漫画全集)

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聖書とアドルム (1951年) (自選作品集)

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