唐沢俊一検証blog

唐沢俊一氏の検証をしてきたブログ(更新は終了しました)

読むとふくれっ面になるブックレビュー。

 11月2日の「朝日新聞」に掲載された唐沢俊一による高野 澄『オイッチニーのサン―「日本映画の父」マキノ省三ものがたり 』(PHP研究所)の書評より。

この9月に公開されたばかりの映画「次郎長三国志」の監督がマキノ雅彦こと津川雅彦。その父は戦前の映画スター沢村国太郎であり、その妻・智子の父が日本映画の父、マキノ省三である。日本の映画の歴史はまだ、このくらいの代で言い尽くされるほど浅い。

 いや、それを言うなら映画の歴史そのものが浅いんだよ。リュミエール兄弟が世界初の映画を撮ったとされているのは1895年マキノ省三が初めて映画を撮ったとされているのは1908年。ほんの10年くらいしか差はないのである。「日本の」とわざわざつける必要なんてない。ちなみに今年はマキノ省三が初めて映画を撮ってから100周年。…どうして、こういう情報をカットしてしまうのかなあ。
 それにしても、津川雅彦の「代で言い尽くされる」って、唐沢俊一の映画史は昭和30年代で止まっているんだろうか津川雅彦が『狂った果実』や『日本の夜と霧』に出てた頃なら「言い尽くされる」んだろうけどね。馬鹿者よ、頭を鍛えておけ。普通に考えれば、現在の邦画を背負っているのは津川雅彦の子供や孫にあたる世代の人々だろう。歴史に対する感覚って「雑学」を集めるうえで大事だと思うんだけど、こうも粗雑な認識では…。


 11月9日の「朝日新聞」に掲載された唐沢俊一による東郷隆『名探偵クマグスの冒険』(集英社)の書評より

その後もブームは何度か再燃し、いまや熊楠はすっかり日本の誇る偉人として認識されるようになった。安下宿に住みこんで大英博物館に日参し、高名な英国の学者たちをも瞠目(どうもく)させる学識の冴(さ)えを見せる日本の奇人学者というイメージは、すでにパブリック・ドメイン(共有財産)となっている。

 パブリック・ドメインってそういう風に使うか?パブリック・ドメインは普通は「著作権などの知的財産権が誰にも帰属しない状態にある知的創作物」という意味で使い、例えば著作権の保護期間が過ぎた著作物はパブリック・ドメインにあたる。誰かのイメージが「パブリック・ドメイン」になるというのは考えにくい(企業のマスコットキャラやトレードマークなどがパブリック・ドメインになることはあるだろうけど)。「パブリック・ドメイン」なんて言葉を使わなくても「イメージはすでに一般的なものとなっている」「世間に広く知れ渡っている」で十分意味は通じたと思うのだが。なお、この件について、唐沢俊一スレッド@2ちゃんねる一般書籍板では「誤用とは言い切れないのではないか?」と論議が紛糾しているが、まぎらわしい言葉遣いをしていること自体が既に問題だと思う。まあ、著作権法違反の常習犯がよりによって知的財産権関係の用語を必要もないのに使っていることが面白すぎるんだけど。
 なお上記2つの件については「トンデモない一行知識の世界」の後追いなので、そちらもぜひ見てほしい。
唐沢俊一の辞書ではパブリックドメインのさす範囲は恐ろしく広い
『オイッチニーのサン』一冊についても「言い尽く」せないくせに  

 そういえば、今週号の「週刊現代」のマンガ批評で唐沢俊一小玉ユキ坂道のアポロン』(小学館)を取り上げているんだけど、漫棚通信さんも以前に小玉ユキを取り上げていた…。いや、まさかね。しかし、唐沢の書評の出だし、

 いま、最も新作を読むのがワクワクするマンガ家の一人が小玉ユキである。

 って本当かな?でも、ちょうどよかった。自分は『坂道のアポロン』が連載されている「Flowers」を毎号購読しているから、冬コミで話ができる。個人的には西炯子『娚(おとこ)の一生』が一番好きだけど。吉田秋生海街diary』の続きはいつ載るんだろう。
 ついでに、唐沢と漫棚さんの批評を比較してみよう。最初に唐沢。

作者自身ジャズファンらしく、演奏の描写などは凝っているが、基本はあくまでも、純情な少年少女たちがおりなす友情・恋愛の物語だ。

'60年代が舞台とはいえ、ノスタルジー色はそう濃くないが、薫のかけている眼鏡が、最近あまり見ない黒上縁メガネであるところなどに、作者らしいこだわりが見えている。

次に漫棚さん。

ただし。ジャズ好きのかたにはもうしわけないのですが、時代が1966年なら、ここはジャズよりもビートルズでしょ。この年、6月末にビートルズ来日。7月1日にテレビで全国放送。あの日本中を巻き込んだとんでもない大騒ぎを、音楽やってる主人公たちが完全にスルーしてるのは、解せん。ってそういうマンガじゃないのは承知してるのですが。

 さらに「朝日新聞」掲載の松尾慈子さんの「漫画偏愛主義」より。

難を言えば、もう少し60年代のにおいみたいなものが感じられたらなあ、と希望する。雑多な風景や小物の描き方に作者の努力は感じるのだが、もう一歩60年代の温度というか、ちょっと土ぼこり混じりの空気があったらなあ思う。おそらく私よりはるかに若いのだろう作者には少々大変かもしれないが。

 どうも、唐沢俊一が一番60年代へのこだわりがウスいような。ジャズについて突っ込むのは気の毒なのでやめる。なお、「Flowers」スレ@2ちゃんねる少女漫画板では、『坂道のアポロン』について「この話は60年代を舞台にする必要があるのか?」としばしば言われている。

オイッチニーのサン

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名探偵クマグスの冒険

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狂った果実 [DVD]

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日本の夜と霧 [DVD]

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坂道のアポロン (1) (フラワーコミックス)

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海街diary 1 蝉時雨のやむ頃

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月刊 flowers (フラワーズ) 2008年 12月号 [雑誌]

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