唐沢俊一検証blog

唐沢俊一氏の検証をしてきたブログ(更新は終了しました)

「イギリス人とテロの深い関係」のまとめ&パクリ発見。

 『唐沢俊一のトンデモ事件簿』(三才ブックス)収録の「イギリス人とテロの深い関係」は、既に何回か記事にしたように間違いだらけである。というかイギリスをかなりナメた文章である。そこで今回はコラム全文を紹介しつつ、今までのおさらいもしていきたい。明らかに間違っている部分は赤字で記しておく。

 イギリス・ロンドンで2005年の7月に、アルカイダの仕業と思われる大規模な地下鉄爆破テロが起こり、52人が死亡した。世界各国のニュースでその現場の状況がレポートされ、興奮したキャスターたちのアナウンスが響いている中で、当のイギリス人は、近くのパブで、いつも通りギネスのジョッキを傾けながらこう会話していたという。
「今日はちょっとうるさいね」
 こういう時は、イギリスという国の国民性が大変うらやましくなる。NHKのインタビューに対し、あるロンドン子はこう答えていた。
「だって、イギリスはIRA(カトリック武装北アイルランド軍)のテロがしょっちゅう起こっている国だからね。今さらこの程度では驚かない」
 打たれ強くなるにはやはり常日頃から打たれていないとダメなのだ、という証明みたいな話である。

 まず、ロンドン同時爆破テロの死者は犯人を入れて56名である。しかし、そんなニュースが本当にやっていたのか疑問ではあるが。というか、テレビのニュースを見て「ロンドンっ子はたくましいなあ」と思い込むのってどうなのか。しかし、一番問題なのは「テロがしょっちゅう起こっている」から気にしないかのような書き方である。じゃあ、テロが頻繁に起こって「打たれ強く」なればいいんだろうか。同時爆破テロの後でロンドン市民が平静を装おうとしていたのは、いつも通りの生活を送ることによって「テロに屈しない」という姿勢を見せようとしたためではないだろうか。当時のケン・リヴィングストン市長もそのようなメッセージを出している。「イギリスという国の国民性が大変うらやましくなる」というのは思い上がりでしかない

思えばイギリスというのは妙な国で、爆弾テロを、お祭りの日にしてしまうのである。 
 イギリスの毎年11月5日はガイ・フォークス・デイといって、花火を盛大に打ち上げたり、子供たちが花火を持って町中を走ったりして祝う。このガイ・フォークスという人物は、やはりアイルランド出身カトリック教徒で、1605年のこの日に、カトリック教徒たちが上院の開式に合わせて議事堂に爆弾をしかけ、開院式に参加する国王ジェームズ一世を暗殺しようとしたテロ計画の実行犯であった。
 計画は仲間内から密告者が出て未遂に終わり、ガイ・フォークスは拷問の末、反逆罪で四つ裂きの死刑に処された。いわば国家転覆を図った重大犯なのだが、彼はまた伊達男として有名で、いわゆる“ナイス・ガイ”のガイというのは彼の名前から取られたといわれているくらいのハンサムだった。その一事で、本来大逆罪犯の、天も許さぬこの男を、イングランド人はヒーローとしてまつり上げ、彼の名を冠した祝日を設けて、爆弾テロにちなんで花火をどっかんどっかん打ち上げて祝うのである。何を考えているのか分からない。

 
 この文章については10月21日の記事を参照して欲しいが、おそらく「ナイスガイ」の語源はガイ・フォークスに由来するという説(一応あるらしい)から、唐沢独自の理論を捏造したものと思われる。ヨーク出身ガイ・フォークスがなぜアイルランド出身になったかは謎。

 話をIRAに戻すと、この団体は女王陛下のイングランドに楯突く凶悪なテロ組織なのだが、しかしイングランドに長年虐げられてきたアイルランドの独立を目指す組織なので賛同者も多く、あの女王陛下の007”ことショーン・コネリーも、この団体には多額の寄付をしているだからコネリーはいまだにサーの称号がもらえないでいる)。イギリスは王族のマウントバッテン卿すらもIRAのテロでヨットごと吹っ飛ばされ、命を失っている。そんな団体に国民的人気の俳優が同調を示して、しかも何をいわれないのであるから、イギリスという国は本当によく分からない。

 この文章については10月4日の記事を参照。
主な間違いとしては、
アイルランド1921年に独立している
ショーン・コネリーは“女王陛下の007”と呼ばれていない
・コネリーはIRAに寄付していない
・コネリーは2000年にナイトになっている

あと、「イングランド」の使い方にも問題がある。やはりこの短い文章の中にこれだけの間違いがあるのは凄い。「本当によく分からない」のは唐沢俊一の脳内である。町山智浩さんnofrillsさんの記事も参照してね。ためになります。

 ちなみに、今や全世界にそのナサケナ男ぶりを知らしめたチャールズ皇太子は、個人的にこのマウントバッテン卿に心服しており、もし卿が1979年に死亡していなければ、ダイアナ妃問題も起こらなかったのではないかといわれている。……しかし、マウントバッテン卿は英国上流社会の伝統に忠実というか何というか、露骨なお稚児趣味で知られた人で、爆死時もヨットに美少年を引き込んでいた(しかも5人も!)とされる。そんな人物にサジェスチョンを受けて、果たしてまっとうな結婚生活を送れたかどうか、やっぱり疑問なのだが。

 「ナサケナ男」というのがよくわからないが、マウントバッテン卿に本当にそのような趣味があったのだろうか。マウントバッテン卿のヨットには5人も少年は乗っていなかったようだが(wikipedia)。それから、イギリスの上流社会に「お稚児趣味」が伝統としてあったのかどうか。だったらどうしてオスカー・ワイルドは捕まったんだろうか。

 それはともかく、マウントバッテン卿の殺害を受け、鉄の女・サッチャー首相(当時)はこの事件に徹底して報復を行うと宣言、IRAを撲滅すると意気込んだ。IRAも反撃。テロと攻撃の連鎖が止まらない。IRAの闘士ボビー・サンズは捕らえられるが、獄中立候補をして下院議員に当選するが議会に出られず、抗議のためにハンストを始めた。 しかし、そんなことでひるむサッチャーではない。サンズの要求を無視。メシを食わないなら勝手に食うな、と放っておいたら本当にサンズは餓死してしまった。する方もする方、される方もされる方である。

 この文章については10月5日の記事を参照。時間関係がムチャクチャだし、IRAについて基本的なことが何もわかっていないことがバレバレである。詳しくはnofrillsさんの記事を参照してほしい。

 IRAも黙っていない。この報復のためサッチャー暗殺を企て、ホテルに爆弾テロを仕掛けたが、強運!大破したホテルの瓦礫の下でサッチャーは生きていたのだ。そして、予定通りに演説の席に立ち、テロがあろうと何だろうと、我々は全く動じないと宣言して喝采を浴びた。
 要するにイギリス人は、不動心というか、どんな自体になっても“いつもの気分”を失わない国民なのだ。さっきの地下鉄テロの話もそうだが、頑固なイギリス人たちは、ヤバン人(多くのイギリス人はアラブ人をまっとうな人間と思っていない)のテロごときで毎日、その駅近くのパブを利用するという自分の習慣を変えたりはしないのである。
 これが日本だったらどうか。地下鉄サリン事件の翌日に、別の路線の地下鉄を利用する用事があったのだが、混み合う時間帯にも関わらずガラガラだった。あれだけの大事件が連続して起こる確率はかなり低いと思うのだが、日本人は自分の不安を優先してしまうのである。イギリス人だって不安だろうが、彼らは自分の習慣を優先する国民なのだ。

 この「爆弾テロ」とは1984年10月12日の「ブライトン爆弾事件」のことだろう。なお、サッチャーとボビー・サンズの話は『社会派くんがゆく!維新編』(アスペクト)のコラムでも使いまわしている
 それにしても「要するに」以下はただの妄言である。「多くのイギリス人はアラブ人をまっとうな人間と思っていない」って本当にそうか?たとえば、名門デパート「ハロッズ」のオーナーはアラブ人のモハメド・アルファイドなのだが(彼の息子があのドディ・アルファイド)。そもそもロンドン同時爆破テロの犯人はアラブ人ではない。それから、ロンドンの地下鉄だってテロの翌日は乗客が減っていたかも知れないし、ロンドン同時爆破テロの2週間後には爆破未遂事件も起こっている。唐沢が「あれだけの大事件が連続して起こる確率はかない低いと思う」のはいいが、「大事件が連続して起こる」ことだって有り得るのだから、事件のあった地下鉄を避けたいと思う気持ちに日本もイギリスも違いはないと思うのだが。

 このイギリス流の頑固さを証明するのが、食事のまずさだ。テロの直前にフランスのシラク大統領(当時)が、「イギリスの食事はフィンランドの次にまずい。食事のまずい国は信用できない」と述べて話題を呼んだ。かなり失礼な発言なのだが、あまりシラクが批判されなかったのは、やはりすべての国が(フィンランドを除いて)イギリスの食事はまずい、と心の中で思っていたからだろう。
 実際、あの国のメシはまずい。以前イギリス旅行をした時、初日にラムチョップを食べてあまりのまずさに仰天し、大衆食堂だったからかと思って、翌日は高級レストランでローストビーフを注文したのだが、これがまた言語を絶するまずさで呆れ返った。名物と呼ばれるキドニー(腎臓)パイはションベン臭かったし、アイルランド料理のハギスに至っては人間の食い物とも思えなかった。

 「イギリスの食事はまずい」というのはよく話題になるが、ここまで失礼な文章というのもなかなかない。シラク大統領のことを言えない。そもそも、ハギスはスコットランドの料理である。どこの国の料理かも知らないで「人間の食い物とも思えなかった」もないだろう。というか、「ショーン・コネリーはIRAを支援している」の時もそうだったが、唐沢俊一の脳内ではスコットランドアイルランドということになっているか、またはスコットランドは存在しないことになっているのだろうかスコットランドのことをスコッチでいいから考えてほしい(今回の記事の没タイトル)。

 ここまでひどい料理でイギリス人はなぜ満足しているのか、舌がバカなのかと聞いてみたらそうではなく、イギリス人もやはり、自分の国の料理はまずいと思っているらしい。うまいものが食べたい時には、インド料理店や中華料理店に行くそうだ。こういう店はかつて自国が植民地にした時、腕の良いコックを拉致して連れてきたから味が良いのだ、と彼らは自慢する(ひどい自慢だね、しかし)
 じゃあ、味が分かるのならなぜ、自分の国の料理をもっとうまくするべく努力しないのかというと、そこが習慣をかたくななまでに守るイギリス人の頑固なところで、昔っからずーっと食べてきたものを今さら変えるのは良いことではない、と思っているのだ。

 
 外国の料理が口に合わない時に「舌がバカなのか」と考えるのは失礼だが(逆に日本に来た外国人に「日本人は舌がバカなのか」と聞かれたら嫌だろう)、一体誰に「聞いてみた」んだろう。「腕の良いコック」うんぬんはジョークなんだろうが、仮に植民地時代にコックを拉致してきたとしても、そのコックたちはとっくに現役ではないと思うし。

 イギリス旅行をした人ならお分かりと思うが、あの国はめったに陽がささない。野菜や果物はほとんどがスペインなどからの輸入品であり、かなり値段が高い。16世紀に南米からジャガイモが輸入されてくるまでは、すさまじい飢饉がしょっちゅう英国全土を襲っていた。そこに飢饉に強いジャガイモが入ってきたのだから、イギリス人はこれで飢えずに済むと狂喜した……かと思いきや、ジャガイモがイギリスの食卓に定着したのは輸入されてから200年も経ってから、だった。
 「こんな見たこともない野菜を食べるくらいなら飢えたほうが良い」と考えたのである。凄まじい頑固さである。政府が必死になってジャガイモ普及に精を出して、やっと200年経って普及したのである。そして、普及したと思ったらいきなり国民食となった。白身魚とジャガイモを揚げたフィッシュ・アンド・チップスはイギリス大衆のソウル・フードである。なら、早く受け入れればよいのに、と思ううちはまだイギリスのことを分かったとはいえない。

 あなたこそまず「イギリスのことを」分かってくれ!と心の底から思う。「こんな見たこともない野菜を食べるくらいなら飢えたほうが良い」って本当かなあ。献上されたジャガイモを食べたエリザベス1世が中毒を起こしたという話もあるらしいから、案外新し物好きのような気もするのだが。

 そして、このジャガイモもまた、爆弾騒ぎと隣り合わせなのである。2006年5月、ヨークシャーのポテトフライ工場で、2日続けて労働者たちが避難する騒ぎが起こった。第一次および第二次世界大戦の戦場となったフランスとベルギーから輸入されたジャガイモに混じって、爆弾の部品が発見されたためである。発見されたのは、「マッケイン」というカナダ資本の世界最大手のポテトフライ会社だったが、洗浄中のジャガイモに砲弾が混じっているのが発見され、労働者たちが一斉避難する騒ぎになった。マッケインの広報によれば、警察と爆弾処理班は周囲100mの立入禁止区域を設けたとのことだ。
 そして、その翌日、今度は手榴弾丸ごとが発見され、再び避難することになった。ヨークシャー警察の広報によれば、軍が手榴弾を取り除き、近くの草原で制御爆発させたそうだ。普通なら、この会社のフライドポテトの不買運動とか、工場の従業員のストが起こるところだが、全くそういう気配もなく、爆弾が処理された翌日から、また通常の製造が行われている。マッケインは声明文で「ベルギーと北フランスから輸入されたジャガイモを使用する際、第一次および第二次世界大戦の残骸が見つかるのはしばしばあること」と述べている。今度ロンドンでフィッシュ・アンド・チップスを食べる時には、砲弾のかけらが歯に当たって欠けたりしないように、用心をした方が良いだろう。

 えーと、このマッケイン社の爆弾騒ぎの文章は、ロイター通信の2006年5月22日の記事からのパクリである(元の記事が見られないのでこちらのサイトでチェック)。

ポテトフライ工場の労働者は爆発の危険と隣り合わせ?

英国のポテトフライ工場で、2日続けて労働者たちが避難する騒ぎが起こった。
第一次および第二次世界大戦の戦場となったフランスとベルギーから輸入された
ジャガイモに混じって、爆弾の部品が発見されたため。

金曜日、冷凍ポテトフライ業界の世界最大手マッケイン・フーズ社(カナダ)の
スカボロー工場で、洗浄中のジャガイモに砲弾が混じっているのが発見され
労働者たちが一斉避難する騒ぎになった。

マッケイン社の広報によれば「警察と爆弾処理班は周囲100メートルの
立入禁止区域を設けました」とのこと。

土曜日、今度は手榴弾まるごとが発見され、再び避難することになった。

ノースヨークシャー警察の広報によれば、軍が手榴弾を取り除き、
近くの草原で制御爆発させたそうだ。

スカボロー工場は1969年に開業し、毎週1400トンのじゃがいもを使用している。

ピーターバラ近郊のウィットルジー工場でも、第二次世界大戦の大砲が見つかり
今年だけで何度かの避難騒ぎが起きている。

マッケイン社は声明文で「ベルギーと北フランスから輸入されたジャガイモを
使用する際、第一次および第二次世界大戦の大砲の残骸が見つかるのは
しばしばです」と述べている。

ロイター通信社(ヨーク)5月22日

 見事P&G(パクリ&ガセ)達成であるなんで引用元を書かないのかね。「世界の三面記事・オモロイド」さんの時もそうだったけど、ニュースを紹介しているときは要注意だな。それに、このマッケイン社の爆弾騒ぎってなにもおかしなことなんてないと思う。日本で同じような事件が起こっても別に不買運動もストも起きないはずである。「検証blog」の中の人の田舎では、第二次世界大戦中の不発弾が見つかることがよくあるが、毎回抗議活動が起きることもなくみんな静かに避難して、不発弾は処理されている。唐沢俊一は日本人をナメすぎである

 とにかく、こういう国で美食が広まるわけがない。まずい食事に耐えられる国民であればこそ、ナチス空爆にも、今回のテロにも平然と耐えられたのである。国家の強さは食事のまずしさに比例する、といった人がいたが、確かに先の大戦でもイタリア軍の弱さは有名だった。シラク大統領がイラクに軍を送らなかったのは、食事のうまいフランスの国民には、テロの脅威に耐えることができないと判断したためではないか、と思うのである。

 なにが「とにかく」なのかと思うが、「国家の強さは食事のまずしさに比例する」のなら、どうして日本はアメリカに負けたんだろう。それから、シラク大統領がイラクに軍を送らなかった事情はいろいろ考えられるのだが、唐沢俊一には高度すぎる話なので説明しない。「うちの国民はグルメだからなあ」って大統領が考えるわけないだろう。



…というわけで、「イギリス人とテロの深い関係」全文を紹介してみた。おそらく、この文章にはまだまだ突っ込みどころがあると思うが、もし見つけた方がいればコメントを寄せて欲しい。イギリスに詳しい人にしてみればこの文章は噴飯物だろう。とりあえず、唐沢俊一は二度とイギリスについて文章を書いたりコメントしたりしないように。本当にイギリスに旅行に行ったのかどうかも疑わしくなってくるよ。

唐沢俊一のトンデモ事件簿

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