唐沢俊一検証blog

唐沢俊一氏の検証をしてきたブログ(更新は終了しました)

マクラのせいでお先マックラ。

 「裏モノ日記」2008年10月7日より。

昼は弁当。
何か体調不良、仕事も進まず、食欲もあまりない。
気圧のせいだろう。
Tくんから電話、ちょっと話す。
4時に家を出て、仕事場。
届いた荷物とかの開封、整理。
ゲラ赤入れ。

 この「Tくん」というのは「ラジオライフ」編集部の豊田拓臣さんのことだろう。自分が「ラジオライフ」編集部に電話して豊田さんとお話したのが7日の17時で、その時に豊田さんは「ラジオライフ」最新号の『唐沢俊一古今東西トンデモ事件簿』にパクリが見つかって騒ぎになっていることを唐沢に「さきほど確認した」と仰っていたから時間的にも符合している(詳しくは10月7日の記事を参照)。それはともかく、唐沢俊一はどうしてそのことを書かないのか?豊田さんに「世界の三面記事・オモロイド」を「見たかもしれない」と言ったことをなぜ書かないのか?本当に盗用して無いなら「そんなバカな」って笑い飛ばしてみればいいのに。どうして何も書かないんだろうね。うーん、不思議だなあ。
 余談だけど、この10月7日の「裏モノ日記」で書かれている緒形拳の追悼文にひっかかるところがある。

緒形拳氏死去のニュース、携帯を見たら流れていた。
真っ先に思うのは何と言っても藤枝梅安
イメージが原作とあまりに違う、と池波正太郎が怒った
(もともと、自分の出身である新国劇を捨てた男、ということで
彼を快く思っていなかった)というが、所詮、字でのイメージは
映像のイメージにかなわない。

原作の梅安は“わたし”と言うが、緒形拳の梅安は“あたし”と
言う。それを人から聞いて、医者があたしはないだろう、と思って
一度見て、
「“あたし”以外なし!」
とコロっと転んでしまったくらい、そこに藤枝梅安その人がいた。
文章を書く身として池波先生もくやしかったろうが、百万言を
費やして自分が創造したキャラクターを越える梅安がそこに
存在してしまう、ということが実際にあるんである。

 緒形拳の梅安をホメるのはいいとしても、どうして池波正太郎をクサすような書き方をするんだろう。高校のときに『殺しの四人』を読んで梅安のキャラクター造型にしびれた人間としてはものすごくひっかかる。それに「所詮、字でのイメージは映像のイメージにかなわない」というのは暴論すぎる。


 さて、『唐沢俊一古今東西トンデモ事件簿』のパクリについて唐沢俊一が出したコメントなのだが、考えれば考えるほどおかしい。そこで今回は突っ込みをいれることにする。まず、唐沢のコメントをもう一度紹介。

今回の指摘は指摘として真摯に受け止めたいと思っています。ただし、記事本文を読んでいただければおわかりになりますように、あれはサイト記事を『そのまま』書き写したものではありません。もちろん、あのサイトも(ニュースサイトという性格上)参考にはしていますが、他に海外のサイトなども参照し、あの"事件"の内容を紹介しました。あの連載は(単行本の前書にも書きました通り)さまざまな猟奇事件をあちこちの文献や新聞記事、さらにはネットなどで渉猟し、それを紹介した上で、自分なりの猟奇事件論を展開したものです。論の展開の上で、他の人の論じ到達した内容を私独自の論として語れば、これは問題であると思いますが、事件の紹介としてそのあらましを紹介する場合、元になる事件が同一である場合に、ニュース紹介サイトと類似の表現等が出てくることは避けられない場合があると思います。もちろん、紹介サイトとはいえ、参考にした際にはその旨の表記が必用ではないか、というご意見もおありと思いますが、参考サイトに複数のものがある場合、雑誌掲載などに際しては読者の煩雑やスペースの問題を考え、それらを省略する場合もあります。また、あの事件は今回の原稿中では、落語で言うマクラに相当する部分で、必ずしも深い意味を持ってそのニュースを選んでいるものではありません。そこから本論の村山槐多に話を持っていくためのつなぎの部分であり、テーマの類似から本論へと誘導する部分です。話の流れの中では『こういう事件があったが』という紹介を主にするため、雑多なニュースソースのものが入り交じります

 一番気になるのは、「世界の三面記事・オモロイド」さんからパクったホセ・ルイス・カルバの話を「落語で言うマクラに相当する部分」と書いていることだ。おかしなところを指摘していく。
 まず、どうしてブログから「引用」したのかわからない。たしかに「マクラ」として話題になっているニュースの話をすることはよくある。しかし、その場合でも事実関係にサラッと触れるだけか、もう少し詳しく説明するなら新聞や雑誌の記事を引用するのが普通だ。はっきり言って、ブログから引用する意味なんて無い。引用したソースとしてブログの名前が書かれているのと新聞や雑誌の名前が書かれているのとではどっちが信用できるか、考えなくてもわかるだろう(もちろん「オモロイド」さんが信用できないと言ってるのではない)。カルバの事件についてはたくさんの海外のニュースサイトが扱っているのに(“Jose Luis Calva ”で検索してみるといい)、どうしてわざわざ「オモロイド」さんから「引用」したのか。海外のサイトから翻訳する手間が惜しかったんじゃないか?と邪推したくなってしまう。
 次に、カルバの話が本当に「マクラ」なのか疑わしい。問題の『古今東西トンデモ事件簿』第38回「作家と食人」は次のような構成になっている。

唐沢俊一初の長編小説『血で描く』について「あれは実話なのか?」と聞かれることが多いという話。

作家の想像力についての話。

ホセ・ルイス・カルバの話。

村山槐多の話。

…あのー、「マクラ」って本題に入る前のちょっとしたお話、いわゆるイントロダクションのことだよね?どうしてその前にふたつも別の話があるんだ?…もしかして、カルバの話の前の話もふたつとも「マクラ」ってことか?しかし、もしそうだとしてもやっぱりおかしい。『古今東西トンデモ事件簿』は全部で4ページあるのだが、唐沢俊一が「本論」だと言っている村山槐多の話が始まるのは3ページ目の途中からなのである。本論より「マクラ」の方が長いってどういうことなんだ。唐沢の主張とは逆に、カルバの話から「本論」に入ると考えたほうがコラムの構成としてはしっくりくるのだ。そもそもタイトルが「作家と食人」なのだし、カルバの話は2ページ目の途中から始まっているから「本論」より「マクラ」が長くなるという怪奇現象が起こることもない。唐沢はカルバの話は「本論」ではないと言って追及をかわしたいのだろうが、残念ながらそれは通らないのだ。
 そして、唐沢俊一が「本論」と言っている村山槐多の話もとてもおかしなものである。そもそも、実際に人を殺して食べてしまったカルバの話から『悪魔の舌』という食人をテーマにした小説を書いただけの村山槐多の話へと話が続くのは、明らかにスケールダウンしている。それに唐沢の文章を読んでも、村山槐多が食人に憧れを持っていたとは思えない。唐沢が挙げている村山槐多のエピソードからは、槐多が「肉体」に対して並々ならぬ興味を示していることはわかっても、食人への憧れを感じさせるエピソードはまるでないのだ。だから、『悪魔の舌』も槐多の「肉体」へのこだわりが食人というかたちで表現されたものではないか?と思われてくる。にもかかわらず、唐沢は槐多の『どうぞ裸になって下さい』という詩を紹介した後で無理矢理なこじつけをしている。「ラジオライフ」P.151より(槐多の詩は雑誌でも太字になっている)。

うつくしいねえさん
どうぞ裸になって下さい
まる裸になって下さい
ああ 心がをどる
どんなにうつくしかろ
あなたのまる裸
とても見ずにはすまされぬ
どうぞ裸になって下さい


…この詩を書きながら、槐多の心に芽生えていたのは、性欲よりも食欲ではなかったか。ぽちゃぽちゃとした女性の皮下脂肪に富んだ肉体に、舌なめずりをしていたのではなかったか。

 無茶である。トンデモである。何の根拠があってこんなことを言うのだろう。まあ、唐沢俊一はそういう風に考えたいんだろうけどね。肝心の「本論」がこれじゃあねぇ。パクリは論外だとしても、論理的に物事を考えられないうえに、まともな文章を書けないというのも大問題だ。今回だけでなく最近の文章はどれもヒドいのだが(個人的にどうしても許せない文章があるのでそのうち取り上げたい)。

 その他。「もちろん、紹介サイトとはいえ、参考にした際にはその旨の表記が必用ではないか、というご意見もおありと思いますが、参考サイトに複数のものがある場合、雑誌掲載などに際しては読者の煩雑やスペースの問題を考え、それらを省略する場合もあります。」という部分について、「ふりだしにもどる」さんが怒っておられる。

スペース上の問題で引用元や参考元を載せないというのもあんまりだが、『読者の煩雑』というのはどういうことなのか。読み手のことを考えてゴチャゴチャと引用元や参考元を書かないでおいてあげたと言いたいのだろうか。誰が頼んだんだよ。

 まさに仰るとおり。自分が怠けたいだけなのに、それを「読者のため」とおためごかしを言うのはどうなんだろう。自分も『トンデモ事件簿』の単行本に初出が書かれてなかったおかげで「ラジオライフ」編集部に電話をする羽目になったし(コラムの終わりに「○年○月号」と書いておいてくれるだけでよかったんだけど)。
 あと、藤岡真さんもいろいろ突っ込んでおられるけど、個人的には藤岡さんが「ラジオライフ」を楽しく読まれているのが面白かった(藤岡さんのサイトはリンク集からどうぞ)。自分も「ラジオライフ」には何の恨みも無いので、なんとか上手く切り抜けて欲しいと思う。

ラジオライフ 2008年 11月号 [雑誌]

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必殺仕掛人 上巻 [DVD]

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新装版・殺しの四人 仕掛人・藤枝梅安(一) (講談社文庫)

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