唐沢俊一検証blog

唐沢俊一氏の検証をしてきたブログ(更新は終了しました)

『唐沢俊一のトンデモ事件簿』パクリ疑惑・その1。

唐沢俊一のトンデモ事件簿』(三才ブックス)P155〜156
CASE16「ゴールドラッシュとカニバル(人肉食い)」より

アメリカ開拓史中に何度か現れる人肉食事件の嚆矢として知られるのが、このシエラネバダ山脈での“ドナー峠事件”である。イリノイ州に住むジョージ・ドナーと、弟のジェイコブ、そして友人ジェイムズ・リードは、当時のカリフォルニアでのゴールドラッシュブームに乗ろうと、家族を引き連れてカリフォルニアへの移住を決心し、1846年4月、総勢30名ほどの幌馬車隊を組み、家畜を伴って西へ向かった(人数は途中で90名近くになった)。
 幌馬車隊は、秋の終わりまでにはカリフォルニアに到着するはずだった。しかし、豪雨にたたられ、道を誤り、10月の末になって、既に雪があたりを覆う気候になっても、まだシエラネバダの山の中をさまよっている状態だった。そして、目的地にあと200mというあたり、山中の峠の1つに差しかかったあたりで、10mを超える積雪のため、ほとんど生き埋めの状態になってしまう。食料はあっという間に尽き、飢えた人々は、馬や牛などの家畜から、ペットの犬や猫、そして、革製のコートや靴など(『黄金狂時代』のあの有名なシーンの原型)、食べられるものはすべて食べ尽くし、そしてその後に、お決まりの、人肉の食い合いが行われた。

『私の闇の奥』2007年5月2日掲載「白人は何故「カニバリズム」にこだわるのか(2)」より

国史で最も有名なカニバリズム事件は「ドナー・パーティー(Donner Party)」事件です。イリノイ州スプリングフィールドのジョージ・ドナー、その弟ジェイコブ、友人ジェイムズ・リードは、彼らの家族を連れてカリフォルニアへの移住を決心し、1846年4月中旬、総勢30人余りで家畜をともなって西へ向かいました。途中で参加者が増えて90人近くになったドナー幌馬車隊は、グレート・ソルト・レークの南を通り、シエラ・ネバダ山脈を越えて、秋の暮れまでにはサン・フランシスコに到着する筈だったのですが、豪雨に見舞われたり、近道と聞いて辿ったトレイルが結局はひどい遠道になったりして、10月の末、シエラ・ネバダの山並みの中の一つの峠(あとでドナー・パスと呼ばれるようになる)に差掛かった時、10メートルを超える積雪に行方を遮られて、幌馬車隊は身動きが取れなくなってしまいました。目的の地 Sutter’s Fort (今のサクラメント)から200キロほどの地点でした。連れて来た牛馬や犬は勿論、獣皮や樹皮などおよそ食べれる物はなんでも食べるようになり(チャップリンの映画「黄金狂時代」に靴を煮て食べるシーンがあります)、餓死の恐怖がキャンプにみなぎり始めます。12月中旬、15人の隊員が救助を求めてサッターズ・フォートに向かいましたが、約20日間の修羅の旅を生き抜いてフォートに辿りついたのは、たったの7人だけでした。1847年2月初旬、第一次の救助隊がフォートから派遣されましたが、打ち続く悪天候と難路のために救助作業は難行し、生存者の全てをフォートに運ぶまでに4回の救助隊派遣と2ヶ月の月日が必要でした。その間に90人弱の当初の人員の約半数が死に果てました。

 はっきり言ってこの時点でパクリ確定である。あまりにも似すぎているのだ。『黄金狂時代』に言及するところまで同じあたり、漫棚通信さんからツッコミどころまでパクったのを思い出す。
 ただ、パクった割りには間違っているのはさすが唐沢俊一というべきか。「ドナー峠事件」と書いているが、普通は『私の闇の奥』にあるように「ドナー・パーティー事件」あるいは「ドナー隊事件」と呼ぶ。だいたい「ドナー峠」(ドナー・パス)と呼ばれるようになったのはドナーの一行の事件のせいであって、元からの地名でもないのだし。「目的地まで200キロ」を「200m」としてるのもどうか。距離が違いすぎるよ!
 しかし、パクリが確定したとは言っても、パクリとしてはいくつかのパターンが考えられる。

①唐沢が「私の闇の奥」からパクった。
②「私の闇の奥」が『ラジオライフ』に載った唐沢の文章からパクった。
③両者ともに同じ資料から書き写した。

 言うまでも無く①が一番ありそうである。ただし、唐沢の本から雑学をそのまま写しているのをネット上でよく見かけるので(ガセビアが多いが)、②のパターンも考えられないわけではない。
 まず最初に『トンデモ事件簿』の巻末に参考文献として挙げられているブライアン・マリナー『カニバリズム』(青弓社)を読んでみた。「ドナー・パーティー」についてこの本から書き写したのでは?と考えたのだ。しかし、読み終わってから恐ろしいことに気づいた。『トンデモ事件簿』には『カニバリズム』に出てこない話がかなり多く書かれているのだ。たとえば、「ジェイムズ・リード」の名前は『カニバリズム』には出てこない(ドナー隊の一員として「リード」というファミリーネームなら出てくる)。そして、コートや靴を食べた話も出てこない。つまり、唐沢のネタ元は『カニバリズム』以外に存在することになる。これでは何のために参考文献に挙げたのかわからないし、そもそも『カニバリズム』をちゃんと読んでいないのでは?と思ってしまう。はっきり言って『カニバリズム』で書かれている「ドナー・パーティー事件」の方が断然面白いのだ(と言ったら語弊があるグロい話なのだが)。また「唐沢スルーの法則」か?(「唐沢スルーの法則」については10月2日の記事を参照)。
 『私の闇の奥』というブログを書いているのは藤永茂という人である。どういう人かためしにウィキペディアで見てみる。

藤永茂(ふじなが しげる、1926年長春 - )は物理化学者、評論家。九州大学物理学科卒、京都大学教授、アルバータ大学教授を経て、現在アルバータ大名誉教授。専門とする量子化学のほかに、科学哲学や社会・文化・歴史などに関する評論・エッセイ、ジョゼフ・コンラッド『闇の奥』の新訳などの著書がある。

『闇の奥』の奥―コンラッド/植民地主義/アフリカの重荷

『闇の奥』の奥―コンラッド/植民地主義/アフリカの重荷

 大学の先生である。…そんな人が唐沢からパクるかなー?まあ、でも一応聞いてみた方がいいと思って『私の闇の奥』にコメントしておいたら、藤永先生にご返事をしていただいた。

盗用の件について、お答えします。
Donner Party 事件に関する英語文献は、私のブログでも申しました通り、大量に存在します。私はその中から信憑性の高そうなものをかなりの数通読し、私のブログの記事を書きましたが、ブライアン・マリナーという人の『カニバリズム』という書物は参考にしていませんし、使用文献の文章の翻訳をストレートに書き下ろした部分もありません。
従って、唐沢さんという方の文章が私の文章によく似ているのは、私の文章が下敷きになっているからであると、私は判断いたします。                      

投稿 藤永 茂 | 2008/10/05 22:30

 やっぱり。「唐沢さんという方」と仰っているところをみると、唐沢俊一のことをそもそもご存じなかったようだ。というわけで②のパターンはほぼ消滅である。藤永先生、不躾な質問に答えていただいて本当にありがとうございました。
 しかし、それでもまだ完全に唐沢のパクリだと証明されたわけではない。なぜなら、唐沢の文章がいつ書かれたか分からないのだ。『トンデモ事件簿』は月刊「ラジオライフ」に連載されている『唐沢俊一古今東西トンデモ事件簿』をまとめたものなのだが、単行本には初出が出ていない。自分は本当につい最近「ラジオライフ」をチェックするようになったからわからないし、ネットを調べてみても情報が出てこない。困ってしまった。うーん。
…というわけで「ラジオライフ」の編集部に電話をして聞いてみた。まあ、一番確実だしね。唐沢俊一を担当している豊田拓臣さんに「ゴールドラッシュとカニバル(人肉食い)」がいつ掲載されたものであるか聞いてみると、「2007年12月号」に掲載されたものだとわかった。「ラジオライフ」は毎月25日発売で2007年12月号が発売されたのは2007年10月25日「裏モノ日記」2007年10月2日にはこのように書かれている。

ラジオライフ』原稿書き出す。
ネタが前にやったものではないか? と思い前の掲載誌など
調べるが、別にダブりもなし。
なぜそういう気になったか。デジャブか。
とにかくガリガリと11枚強、一気書き。
大ネタをぜいたくにぶちこんで、面白くはなったが
まとまりはどうか?

…いや、藤永先生のブログと思いっきりダブってるって。それに豊田さんによれば、原稿の締め切りは発売の前月末とのことなので、締め切りをオーバーしてる。というわけで、唐沢俊一の方が藤永先生より後に書いていたことがわかったので、唐沢がパクったものと断定してもいいだろう。
…さて、盗作の疑惑が濃厚になった以上、豊田さんにこのことを知らせるべきだろう。早速お伝えすると、豊田さんは「雑誌の方に参考文献が載っているので、そこから写したのではないか」と答えられた。しかし、唐沢が参考文献として挙げているカニバリズム』に書かれていない情報を唐沢が書いているのは前にも書いた通りなのでそれは通用しない(豊田さんは参考文献の名前まではご存じなかったが)。
 そして、『ラジオライフ』最新号でも唐沢俊一がネットから盗作をした疑いが強いこともお伝えすると、このような返事がかえってきた。
さきほど本人にも確認しましたが、ネタを調べるうちに見たことはあったかもしれないと言ってました

えっ!?
 じゃあ、唐沢俊一は今回の騒ぎを知っているのか!?あわてて聞き直すと「話だけは知っている」とのこと。「唐沢さんはそのブログを見たんですね?」と聞くと「いえ、見たとは言ってません。見たかも知れないと言ってました」…いやあ、それは見てるんじゃないかなー。しかし、唐沢俊一が今回のことを知っているとわかったのは大きいな。
 ついでに、藤永先生が『トンデモ事件簿』のパクリを既にご存知であることも伝えて、その件についても唐沢俊一に確認をとったほうがいいですよ、と言うと「当事者が言ってくるならわかりますが…」と豊田さん。いや、単に親切心で言ったんだけど…。でも、豊田さんの気持ちも分かる。読者がこんなに根掘り葉掘り聞くのはどう考えても怪しいし、担当している作家を守ろうとするのは当然のことだ。途中で何度も「そんなことを聞いてどうするんですか?」と聞かれたけど、まさか「あとでブログに書きます」とは言えない。ウソをついたわけじゃないけど正直に言うべきだったかもとは思う。豊田さん、しつこい質問につきあっていただいてありがとうございました。なお、豊田さんとの会話は、録音していたわけではないので細部に間違いがあるかもしれないが、事実を歪めたりしてはいないことをお断りしておく。

 

カニバリズム―最後のタブー

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