唐沢俊一検証blog

唐沢俊一氏の検証をしてきたブログ(更新は終了しました)

凄惨なガセビア。

 唐沢俊一の最新刊『唐沢俊一のトンデモ事件簿』(三才ブックス)は、まさに唐沢俊一らしい本であるといえる。なぜなら、表紙にガセビアがあるのだ。これは数多い唐沢の著作でも初めてのことではないだろうか。
 『トンデモ事件簿』の表紙には猟奇事件をモチーフにしたカルタが描かれているのだが、「は」の絵札には紙コップに入ったコーヒーの香りをかぐ女性が描かれていて、読み札には「鼻をつくアーモンドの香りは青酸カリ」と書かれている。
…「青酸カリはアーモンドの香りがする」という話はガセで、本当は「アーモンドの果実の甘酸っぱい匂いがする」という話は、雑学に興味を持った人なら早い時期に知るはずなのだが。それに青酸カリ自体は無臭なのであって、胃酸と反応してガスが発生することによって匂いがするのだから、青酸カリの入ったコーヒーから「アーモンドの香り」がするわけがない。そして、残念ながら唐沢は別のところでも同じ間違いをしている
『唐沢先生の雑学授業』(二見書房)P.33

唐沢●推理小説ではもう、 "被害者の死体からは青酸カリを飲まされた者特有の、甘いアーモンドの香りがプンとした" なんて表現が定番だし。
おぐり●あ、あれ読むたびに、"おいしそう"と思っちゃって。アーモンドチョコ、食べたいな。

(註 「おぐり」とはおぐりゆかのこと。『雑学授業』は唐沢とおぐりゆかの掛け合いで話が進む構成になっている)
『裏モノの神様』(幻冬舎文庫)P.74

青酸カレー事件というのが話題になったが、青酸カリの仕込み場所の二大定番がこのカレーとチョコレートだという。理由は、青酸カリという薬品にはかなり強烈な刺激臭 (よくアーモンドの匂いに例えられる) があり、普通の食べ物に混ぜ込んでも、すぐに匂いでばれてしまうからだという。カレーはその刺激臭を香辛料でごまかすことができるのでよく利用されるのだ。 一方、チョコの方は、アーモンドが中に入っているのが普通なので……。

 上の2冊とも、アーモンドとチョコを関連させているので、「アーモンド」が果実ではなく種を意味しているのは明らかである。それに『裏モノの神様』では、青酸カリ自体に匂いがあると書いてしまっている。
 しかし、今回の場合は、表紙を描いたイラストレーター(よもやまはなこ)がミスをしたのであって、唐沢本人がミスをしたわけではないとまだ言い逃れをすることは出来る(最低な言い訳だが)。だがしかし、唐沢俊一は『トンデモ事件簿』本文でも同じミスをしてしまっているのだ
『トンデモ事件簿』P.43

 この犯人がなぜ、これほど大胆な行動を取れたのかというカギが、使用した毒物にあった。それまで、日本で、かくも微量な、それを投入した紅茶をひと口飲んだだけで絶命するような強力な毒は知られていなかった。青酸性の毒物を服用した死体は顔が異様に紅潮してバラ色になることや、独特のアーモンド臭がすることなどの特徴があって、現代ならば一見して分かるが、当時は警察の検死医も、いったい何の毒で殺されたのかよく分からない、それくらいの斬新な殺人方法だったのである。

…うーん、またやってしまったんだね。しかし、「それまで、日本で、かくも微量な、それを投入した紅茶をひと口飲んだだけで絶命するような強力な毒は知られていなかった。」という文章はヘン(「それまで日本では、かくも微量で人を死に至らしめるような毒は知られていなかった」かな?)。同じP.43の

 本当かどうか分からないが、この毒殺事件の犯人である鵜野洲武義は柳北小学校出入りの足袋屋の主人だったが、かなりの毒殺マニアで、青酸カリの前には亜ヒ酸(ヒ素)を使っての殺人を計画していたという。

これも「本当かどうかわからないが」がヘンな位置にあるため「足袋屋の主人」にかかるように読めてしまう。まあ、唐沢の文章をいちいちチェックしていくと大変なのでこの辺でやめておく。
 ついでに書いておくと、『トンデモ事件簿』P.54〜55に載っている、よもやまけいこのマンガ『眠リーマン』は、青酸カリを自分で注射した男が青酸カリが空気に触れて酸化したせいで無事だったという話なのだが、青酸カリを注射された人間も経口で摂取した場合と同様に死んでしまうので、このマンガもガセということになる。
 なお、唐沢俊一の青酸関係のガセビアは「トンデモない一行知識の世界」でも取り上げられているのでチェックしてみよう。
青酸カリを注射すると死ぬ
青酸な殺人現場? 
青酸カリーというメニューのある食べ物屋もあるそうだが……  
コーヒーのアーモンドの香りが「鼻をつく」というのも変だし

唐沢俊一のトンデモ事件簿

唐沢俊一のトンデモ事件簿

唐沢先生の雑学授業 (二見文庫)

唐沢先生の雑学授業 (二見文庫)

裏モノの神様 (幻冬舎文庫)

裏モノの神様 (幻冬舎文庫)

追記 えのさんのご指摘を受けて記事の一部を修正しました。