唐沢俊一検証blog

唐沢俊一氏の検証をしてきたブログ(更新は終了しました)

ちょうど珍奇なガセビアにえらいびっくり。

「ある二宮ひかるファンの日記」さんにトラックバックしていただきました。…いや、自分も二宮ファンなので妙に嬉しかったもので。一番のお気に入りを紹介しておこうっと。

[rakuten:book:11161919:detail]

では本題。
『薬局通』P.221

赤チン、というのもすでに知らない世代がふえてきた。ちょっと前まで、子供というのは必ずやヒザ小僧にこの赤チンがテカテカ光っていたものだ。本名はマーキュロクロム。これ自体は青緑色の粉末なのだが、それを水に溶かすと液は暗赤色になる。これが赤チンだ。赤チンという名称は赤色チンキの略なのだろうが、チンキ剤というのは生薬などの主成分をエチルアルコールに浸出させたものだから、この呼び方は正しくない。ただ液剤という意味でチンキと俗称したものだろう。

 赤チンは「赤色ヨードチンキ」「赤いヨードチンキ」という意味だとされている。マーキュロクロム液もヨードチンキもともに消毒液として使われていたので、区別するためにそのように呼ばれたのだろう。マーキュロクロム液は、マーキュロクロムを水に溶かしたものなので「チンキ」ではないが、ヨードチンキは沃素をエチルアルコールに溶かしたものなので「チンキ」である。ちなみに、ヨードチンキの通称は「ヨーチン」である。
 というわけで、赤チン(マーキュロクロム液)とヨードチンキは別物であることを理解したうえで、続きを読んでいただきたい。
『薬局通』P.222

推理小説といえばエラリー・クイーンの国名シリーズ『エジプト十字架の謎』にも赤チンが事件の謎をとくカギとして使われている。こっちは別に成分には関係ないが、あの大掛かりな連続殺人事件が、現場に落ちていた赤チンの小ビンひとつをきっかけに解決されるのあたりの論理のアクロバットはオミゴトで、初めて読んだときにはアッと叫んで二の句がつげなかった。未読の方のためにこれ以上は書かないでおくが、これも、“赤チンならどこの家庭にあっても不思議はない”という常識をふまえた上でのトリックであった。

 では、実際に『エジプト十字架の秘密』を読んでみよう。ハヤカワ文庫版P.386〜387より引用。

つぎは、平たいドーナツのような形に丸く輪になった繃帯があった。その繃帯はふちがぼさぼさになって汚れていて、一方の側には鳶色がかった赤い液体が浸みていたが、その汚点(しみ)はもう乾いていた。
(中略)
「これはなんだと思いますか?」ヴォーンは切られてる繃帯の輪を上げて見せた。「どうしました?アイシャムさん、とんだところで気分を悪くしましたな」
 地方検事は鼻にしわをよせ、みじめな顔で口ごもった。「手首に巻いた繃帯だろう。その血とヨードチンキのしみている様子では、かなり深く切った傷らしい」
(中略)
 アイシャムはごくんとつばをのんで、勇を鼓してヴォーンの後から小屋に入った。ヴォーンは手斧と鋏を指してみせた。それから繃帯の落ちていたすぐそばに大きな半透明の瓶がころがっているのを指した。それは色の濃い青いガラスの瓶で貼紙(レッテル)は貼ってなかった。瓶はほとんど空で、中身は床の上に流れでてしまい、コルクの栓が数フィート離れたところにころがっていた。その近くにはなかばほどけた繃帯がひと巻き落ちていた。
ヨードチンキですよ」とヴォーンがいった。「これで万事読めた。彼は怪我をしたので、あそこの棚からこの瓶を取って薬をつけたのでしょう。そして瓶はそのままテーブルの上に置いておいて、後で誤って床へ落したのか、または最初から投げ出したのかもしれません。ガラスが厚いので割れなかったのですよ」

 はい、『エジプト十字架の秘密』の犯行現場に落ちていたのは赤チンではなくヨードチンキの瓶というわけだね。それから唐沢は「小ビン」と書いてあるけど、文中には「大きな半透明の瓶」とあるのでこれも誤り。ついでにWikipediaからも引用しておく。

but the key clue that leads Ellery to the solution is a bottle of iodine that enables him to go on a cross-country chase and hunt down the murderer.

iodine ”をgoo辞書で引いてみると、

i・o・dine, i・o・din
━━ n. 【化】ヨウ素, ヨード; 〔話〕 ヨードチンキ *1.
iodine value 【化】ヨウ素価.

だから、“bottle of iodine ”は「ヨードチンキの入った瓶」ということだ。さらにダメ押しとして、もう一度『エジプト十字架の秘密』P.387〜388から引用。

棚の上には青い木綿の布で包んだ包み、歯ブラシ、絆創膏がひと巻きと、繃帯とガーゼがひと巻きずつ、ヨードチンキと貼紙(レッテル)に書いてある小さな瓶と、マーキュロ・クロームという貼紙(レッテル)を貼った同じ大きさの瓶があり、そのほかいくつかの小瓶や広口瓶などがならんでいて、それぞれ下剤、アスピリン亜鉛華軟膏、ワセリンなどの貼紙(レッテル)が貼ってあった。

ヨードチンキとは別にマーキュロクロムの瓶がある。これならヨードチンキと赤チンを間違えようがない。以上、Q.E.D

 しかし、唐沢俊一のアタマからヨードチンキの存在がスポーンと抜けてしまってるかのようで、よくわからない。もしかして、ヨードチンキと赤チンが同じものだと思ってるのかも
 なお、唐沢は『エジプト十字架の謎』と書いているので、おそらく創元推理文庫版を読んだものと思われるが、『謎』でも「ヨードチンキ」「マーキュロクロム」と表記されている点では変わりがないことを念のため書いておく。
 それから、この記事の中に引用してある『エジプト十字架の秘密』の文章から、犯人の素性がある程度推理できます。ヒマだったら考えてみよう。エラリー・クイーンだけに「読者への挑戦」ということで。
                           

エジプト十字架の秘密 (1978年) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

エジプト十字架の秘密 (1978年) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

エジプト十字架の謎 (創元推理文庫 (104-9))

エジプト十字架の謎 (創元推理文庫 (104-9))

*1:消毒薬