唐沢俊一検証blog

唐沢俊一氏の検証をしてきたブログ(更新は終了しました)

「ゴリラという字を一文字変えて」「ゴ・ジ・ラ!」

 うっかり忘れていたのだが、町山智浩さんは過去にも唐沢俊一の盗作事件について書いていたのだった。ここで紹介しておく(その1その2その3その4)。ちなみに唐沢俊一『ロウフィールド館の惨劇』を読んでいる

 
 さて、「裏モノ日記」2007年11月18日付け唐沢俊一はこんなことを書いている。

11時ころ自室に戻り、寝ようとするがなかなか寝られず。
ホッピー飲み直してDVDで『憲兵とバラバラ死美人』など見てしまう。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B000B63DCA/karasawashyun-22
どちらも中山昭二天知茂の共演なのでよく『憲兵と幽霊』とごっちゃにされるが、『憲兵と幽霊』は怪談映画の巨匠中川信夫監督、こっちは鞍馬天狗映画などで知られる並木鏡太郎演出。
並木監督は怪談ものでは池内淳子が毛むくじゃらのゴリラみたいな吸血鬼に変身する『花嫁吸血魔』なども撮っている。

まあ、中川演出にくらべるとずいぶんおとなしく、ケレン不足は否めないがかえってドキュメント調で(ワキのエピソードのあるキャラのその後などをしつこく描かないところなど)別の意味で面白い出来になっている。
バラバラ死美人役の三重明子が美人で色っぽくていい。
殺人事件の真相を突き止める憲兵役をキリヤマ隊長中山昭二、その彼にほのかに思いを寄せる小料理屋の女将に、後(2年後)に中川信夫の『東海道四谷怪談』でお岩を演じる若杉嘉津子。そのおてんばな妹役が江畑絢子。丹波哲郎の愛人で、1児(俳優の森正樹)をもうけた女性である。この妹役が可愛い。当時江畑絢子19歳、ハツラツとした演技だ。
姉のほのかな恋や友人の結婚をからかってばかりいて、自分ではそういうことにまったく無関心(幼なじみの中山の部下の憲兵伍長が秘かに恋しているんだが、江畑の方はさっぱり気がつかない、というルーティンだが微笑ましいシーンがいい)。

で、その江畑絢子演じる“しのちゃん”の台詞に、すさまじい時代無視なものがあった。
中山昭二憲兵軍曹が二階に下宿すると知ったおしの、挨拶のあと姉に向かって言う文句が
「鬼の憲兵っていうからゴジラみたいかと思っていたけど、案外スマートね」
聞き間違いかと思ってもう一回戻して聞いてみたが、やはりゴジラ、と言っている。

この話、憲兵なんかが出てくるわけで、当然のことながら戦前、昭和十二年の話とテロップに出る。その時代にゴジラはないだろう(スマートってのもアリか?)。
もちろん、映画の公開は1957年(昭和32年)。もうとうにゴジラ(昭和29年公開)は一般名詞、というより流行語になっていた。
比喩にその単語を出したのは、脚本(杉本彰)の遊びか、それとも江畑絢子のアドリブか。
何にせよ、聞いてのけぞってしまった。

そう思ってみると、この映画のクライマックス、捜査シーンで流れる勇壮なマーチ風の曲が、なんとなく伊福部調の、あのゴジラのリズムに似ているのである(音楽はあの“ヤン坊マー坊天気予報”を作曲した米山正夫)。
オマージュ、というにはあまりに作品の傾向が違い過ぎるし、
単なる偶然かさもなくば無意識の模倣なのか。

ともかくこの映画、見るのは三回目(オールナイトで一回、ビデオで一回、DVDで今回)なのだが、このセリフに気がついたのはこれが初めて。デジタルリマスターで音声がクリアになったからであろう。
いや、まだまだ見落とし(聞き落とし)ってあるんだろうなあ。
これだから古い映画は油断できない。

 原文では「鬼の憲兵っていうからゴジラみたいかと思っていたけど、案外スマートね」というセリフが太字になっていて、良いネタを見つけた唐沢の喜びようが伝わってくるかのようである。さらに、上映会のニュースにもこのように書かれている。

憲兵とバラバラ死美人」(1957/国際放映/16mm)監督:並木鏡太郎 出演:中山昭二天知茂 23:25〜
・新東宝お家芸になる憲兵怪談シリーズの記念すべき第一作。原作の『のたうつ憲兵』はなんと元・憲兵が書いたノンフィクション! 
仙台が舞台という、変わったミステリーだが、後に新東宝怪談のエースとなる天知茂がまだ初々しい。あ、そうそう、トークのときに教えますが、映画の中に一つ、トンデモないセリフが。

 よっぽど自信のあるネタだということがうかがえる。たしかに、これが本当ならかなり良いネタである。というわけで、実際に『憲兵とバラバラ死美人』をDVDで観てみた。
 問題のシーンは、映画が始まってから17分45秒のシーンである。しの(江畑絢子)は、小坂憲兵軍曹(中山昭二)にあいさつした後で、姉の喜代子(若杉嘉津子)にこう呟く。
「おねえさん、鬼の憲兵さんっていうから、ゴリラみたいかと思ったら案外スマートね」
 セリフを聞いたままに書き取ってみた。念の為、くりかえし見てみたが何度聞いても「ゴリラ」としか聞こえない。…うーん、「ゴリラ」と言ってるとしたら、ゴリラは明治時代には日本で知られるようになっていたというから、別におかしいセリフではない。唐沢は「スマート」という言葉にもツッコミを入れているが、京都にある「スマート珈琲店」という老舗コーヒーショップは1932年創業なので、戦前でも「スマート」という言葉は一般的に使われていたものと思われる。
 しかし、自分の聞き取りがマズくて、唐沢の聞き取りの方が正しい可能性がないわけではない。唐沢は7月26日に池袋の「新文芸坐」で行われた「唐沢俊一 初ホラー小説「血で描く」 刊行記念 第6回奇想天外シネマテーク 怪談映画特集 トークショー 」で、『憲兵とバラバラ死美人』が上映された際にも、この「ゴジラ」ネタを披露しているが、それに対する反応をネット上でいくつか見つけることが出来た。まずひとつめ

まずは唐沢俊一氏ら3人のトークでスタート。ホラー映画に関してけっこう笑える話が多く出ましたが、注目は唐沢氏の言ったこれ。

「これから上映する『憲兵とバラバラ死美人』で妹キャラが言うんですよ、「憲兵って言うからもっとゴジラみたいな人かと思ってたわ」って。ゴジラの初めての映画はこの映画と同時期なんですけど、でもこの映画の舞台は終戦前なんですよねえ・・・憲兵って言うくらいだし。「ゴリラ」って言ったのかって思って何回もDVDで観たんですけど、やっぱり「ゴジラ」なんですよ。もう、制作スタッフの一人くらい気づけよ、と」(筆者の記憶にもとづく再構成、実際のスピーチとは異なります)

さて唐沢氏たちは客席の一部に陣取り、いよいよ上映開始。
(中略)
さて問題の箇所ですが。

憲兵っていうからもっとゴリラみたいな人かと思ってたわ」

「ゴリラ」に聞こえて納得してしまった筆者でした。状況が状況だけに脳が勝手に「ゴジラ」を書き換えたのかもしれませんが。

次はこのブログ

名前の割りに地味なお話でした。
唐沢俊一トークの時に、映画の中のセリフで
ゴジラ」と出てくる!おかしい!
と熱弁をふるっていましたが、ふつうにゴリラに聞こえました

さらに新文芸座スレ@2ちゃんねる映画一般・8mm板ではこのような書き込みが。

332 名前:名無シネマさん[sage] 投稿日:2008/07/28(月) 10:01:52 id:zUP6G0yK
ゴジラじゃなくてちゃんとゴリラってしゃべってたよなあ。。。

333 名前:名無シネマさん[sag] 投稿日:2008/07/28(月) 21:30:48 id:ChKYvNmx
確かにゴリラって言ってたよね、 
話の流れからしてもゴリラで間違いないしな。

実際、新克利ってゴリラみたいなつらだしな
まあ確かに音楽はゴジラっぽかったけど、こじつけすぎるだろと思った

…まあ、そういうわけである。唐沢俊一以外の人間にはみんな「ゴリラ」と聞こえているので、「ゴジラ」というのは唐沢俊一聞き間違いだと断定してもいいだろう。「新文芸坐」の観客のみなさんは問題のシーンを観て「ゴジラじゃないだろう…」と心の中で一斉に唐沢にツッコミを入れていたのだろうか。

憲兵とバラバラ死美人 [DVD]

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ロウフィールド館の惨劇 (角川文庫 (5709))

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