唐沢俊一検証blog

唐沢俊一氏の検証をしてきたブログ(更新は終了しました)

声に出して読めない日本語。

 「問題が幾たびも大ありー」で「裏モノ日記」での言葉の間違いを指摘して「分かりもしないのに難しい言葉を使うな」と書いておいたら、藤岡真さんに『血で描く』の中の古城賢次郎の日記にもおかしな文章がいくつかあるというコメントを頂いた。
 実は『血で描く』の文章には全体的におかしいところが見られるのだが(いちいち指摘するのが面倒なくらい)、古城賢次郎の日記は特におかしい。藤岡さんもコメントしておられるが、文語体と口語体が入り混じったせいで、間違いが多発する羽目になっている。古めかしさを出そうとしているのだろうが(唐沢のレトロ趣味であろう)、いかんせん文法を分かっていないのだからそういうことを試みるのは無茶である。それに自分は割りと昔の作家の日記を読んでいるが、文語体で書かれた日記でも古城賢次郎の日記よりはずっと読みやすい。文語体だから読みにくいわけではなく、古城賢次郎の(唐沢の)文章がヘタだから読みにくいのだと思う。それでは具体的に指摘していく。

仕事場である豆腐屋の二階の部屋に入ると、完成している筈の原稿、いまだ白紙同様のまま机上にあり、オオエ氏の姿影もなし。(『血で描く』P.92)

「姿影もなし」という言い回しがあるのだろうか。「姿はない」もしくは「影も形もない」でいいと思うが。「ザ・カゲスター」の主人公は姿影夫だが…。

沼波恭一氏より長文の手紙。生活苦と、肺を病む同棲中の初枝さんのことを縷々綿々と書きつづりしものにて、世を怨み、人を怨み、天を怨む内容なり。一読するだに暗く落ち込む気分になる。(P.94)

 まず「縷々綿々」である。goo辞書より引用。

縷縷綿綿 意味
話が長くて、くどくどしいさま。また、中身のない話が、延々と繰り返されるさま。▽「縷縷」は細長く続くさま。また、細々と話すさま。「綿綿」はいつまでも続いて絶えない意。「綿」は「緜」とも書く。

 沼波の手紙の内容は「中身のない」わけではないだろう。だからこの場合は不適切。「綿々と書きつづる」と書けばよかったのだが。
 次に「一読するだに」である。「〜だに」は、「〜さえ」と同じ意味である。たとえば、「想像するだに恐ろしい」という風に使う。「一読するだに暗く落ち込む気分になる」ということは、「一通り読むことさえ…」ということだが、手紙を一通り読むこと以上に一体何が出来るというのか。よくわからない。くりかえしになるが、「分かりもしないのに難しい言葉を使うな」ということだ。

西島より初枝さんの病状を聞く。かなり重篤なものではないかと西島心配そうに言うが、あの父親と自分は折合いが悪く出入りすることもかなわぬ由。(P.94)

 「由」は、伝聞の内容を表す言葉である。「〜とのこと」「〜だそうだ」という意味だ。つまり、この場合は「あの父親と自分は折合いが悪く出入りすることもかなわぬ」ということが伝聞の内容ということになる。しかし、実におかしなことだが、文章中の「自分」というのは西島自身のことなのである。ネタバレだが『血で描く』のクライマックスで、沼波のマンガ「血で描く」の世界から脱出を図る主人公・茅島の前に西島が現れて「初枝は俺の妹だ」と告白するシーンがある(正直このシーンにどんな意味があるのかよくわからないのだが)。つまり、初枝の父親は西島の父親でもあり、それで「あの父親と自分は折合いが悪く出入りすることもかなわぬ」と言ったのだろう。…しかし、わけがわからないのだが、古城はこの話を西島から直接聞いているようにしか文章からは読み取れない。伝聞じゃないのにどうして「由」を使うのか。この場合、「あの父親と西島は…」とすれば、古城は誰かから伝聞で西島の事情を知ったということになったと思うのだが、「自分」と書いているのだから、西島が古城に直接話したとしか読み取れない。古城賢次郎の日記は「由」がやたら使われているので、つい使ってしまったということなのだろうか。

西島と荻窪で飲む。奇妙な話いくつかあり。曰く、沼波は完全に食を絶って作品を描いているとのこと。(P.99)

 「曰く」は「〜が言うには」という意味なので、「曰く」だけでなく「西島曰く」としたほうがいい。

…他にもあやしいところはあるが、今日はこのくらいにしておく。というか、こんなことは出版する前に編集者がチェックしてほしい

 ついでに誤植の指摘をしておく。P.127で「血で描く」の単行本が警察に押収されていくのを見送った茅島のセリフ。

……言ってしまった

 状況から考えてこれは「行ってしまった」だろう。別に茅島が何か言ったせいで「血で描く」が押収されたわけでもないのだから。

 最後に妄想。古城賢次郎の日記のこのくだりを読んでついつい考えてしまったので。

5月に開店したばかりの新宿駅ビルミキパーラーで浜田和歌子、黄瀬川竜児の二人と待ち合わせ、怪談もののネーム見る。和歌ちゃんのネーム、楳図かずお氏の少女怪談の影響強すぎて盗作に見えると指摘。

 もうおわかりだろうが、「唐沢の新書、漫棚通信氏のブログの影響強すぎて盗作に見えると指摘」と脳内変換されてしまったのだ。いや「見える」どころか実際に盗作していたんだが

声に出して読みたい日本語

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