まさかの時のスペインバエ。
『薬局通』P.181
西洋では惚れ薬の代表はスパニッシュフライというハエの一種で、これをワインにまぜて飲ませるとどんな高貴な女性でもたちどころに恋のトリコになった、とある。こういうハエが本当にいるのかどうかは知らないが、いちおう服用させる形式であるところが日本とは違って本物らしい。
まず、スパニッシュフライ(spanish fly)という昆虫は実在する。その時点で間違っているが、さらに間違っているのは、スパニッシュフライはハエの一種ではなくツチハンミョウ科の昆虫である。エキサイト辞書を引いてみる。
fly2 /fl/
1 【昆】 [しばしば複合語をなして]
a ハエ.
b 飛ぶ昆虫.
2 (植物・家畜の)ハエや小虫の害,虫害.
3 【釣】 擬似餌(え), 蚊針,毛針; 小昆虫の生き餌.
“butterfly”、“dragonfly”、“firefly”だってハエではないのだから、“fly”がついているからといって、ハエの一種と決め付けるのは早計に過ぎるのである。
さて、ツチハンミョウと来れば話はだいぶわかりやすくなる。ツチハンミョウの体液にはカンタリジンが含まれているのだ。カンタリジンは肌に付着すると水疱が生じる毒物であるが(だからツチハンミョウに触るときには注意しなければならない)、その一方で催淫剤としても知られていて、サド侯爵も使用したと言われている。「本物らしい」もなにも実際に使用されていたのである。さらに、ボルジア家は「カンタレラ」という毒を用いて政敵を次々とに暗殺したと言われているが、「カンタレラ」とカンタリジンとは何らかの関係があるという説も唱えられている。・・・なんだか澁澤龍彦みたいな話になってきた。唐沢俊一もちゃんと調べておけば澁澤龍彦の真似事が出来たのに、残念な話である。
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