『怪奇トリビア』のガセビア・その4
『怪奇トリビア』P.173
江戸の油はさまざまな植物の油をつぶして絞って造っていた。マタタビの種も原料であり、猫がこの匂いにひかれて集まってきたので、化け猫が行灯の油を舐める伝説が生まれた。
江戸時代に行灯の燃料として主に用いられていたのは、菜種油と魚油(イワシ)である。マタタビの種を原料にした油というのは仮にあったとしてもごく少数であるものと思われる。
化け猫が油を舐めるという伝説が生まれた理由を考えてみると、行灯の燃料として魚油が用いられていた場合には、猫が魚を好むのは当然なので話は簡単である。また、菜種油が用いられていた場合でも、猫が脂肪分を補給するために植物性の油を舐めることは珍しくないので、やはり話は簡単である(猫はシーチキンの油を好んで舐めるが、シーチキンの油はサラダ油である)。わざわざマタタビなどを持ち出す必要は無い。
なお、Wikipediaでは菜種油が高価で一部の階級にしか用いられていなかったことを理由に魚油説を採っているが、「鍋島騒動」をはじめ、武士の家で化け猫が出る話は多々有るので、菜種油説でも別段差し支えはないように思う。
それから、猫がマタタビを好むのはマタタビラクトンという成分が原因だが、マタタビラクトンが含まれているのは主にマタタビの実・葉・茎なので、「マタタビの種を原料にした油」があったとしても、それに猫が集まってくるかどうか疑問が残る。
- 作者: 石毛直道
- 出版社/メーカー: 岩波書店
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